僕って何 (角川文庫 緑 478-5)
僕って何 (角川文庫 緑 478-5) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1977年上半期芥川賞受賞作。タイトルは、何というナイーヴでプリミティフな問いかけだろう。これでは、思春期前期の問いではないか。読む前は、このタイトルからノンポリ学生の傍観者的な手記のようなものを想像していた。小説の冒頭はそんな風に始まるが、それ以降はなかなかに緊迫感に満ちた展開だ。あくまでもフィクションだが、読者もまた早稲田闘争の渦中にいるかのごとき臨場感に包まれる。たしかに甘いのだが(恋を絡めるからよけいに)「僕」の抱える煩悶は時代の抱えた状況をよく伝えている。ただし、エンディングは再びの幼児退行だ。
2014/02/11
Y2K☮
名前は三田なのに早大卒。学生運動に引き込まれたナイーブな男の子の物語。思想とかどうでもよく、ただ独りが寂しくて誰かと繋がりが欲しいだけ。組織内で彼女ができたら今度は指導者や女が対等に見てくれないという幼稚な不満から別組織へ変節。何のポリシーも無いから結局は同じ事の繰り返し。育ちの良さゆえの共感力と高い自尊心が逆効果。デモが賛美されている今こそ改めて読むべき一冊かもしれない。熱意を全否定はしないけど、正直若い学生には路上で群れて理想論を叫ぶよりも地味で孤独な勉強や労働から現実的な答えを導き出して欲しいです。
2015/10/10
メタボン
☆☆☆☆ ちょうど今、三島由紀夫と東大学生との討論のフィルムが映画化され話題になっている。全共闘世代の雰囲気が感じられる三田誠広らしい読みやすい文体の青春小説。セクトに馴染めず、居場所がない僕の「僕って何」という問いかけは、時代を超えて共感できるものだと思う。母と、同棲している年上のレイ子さんとが、後半僕のアパートで僕を待っているという予定調和的なシチュエーションは、賛否両論あると思うが、私は、優柔不断な男と、現実にうまくそぐわせられる女という対比が面白く、このラストもありだなと思った。
2020/03/25
absinthe
読んだのは大学時代だったが、その当時も古い本と言われてた。何処に行っても自分の居場所らしい場所を見つける事が出来ない僕。気取らず飾らず等身大の僕を描く。学生運動の時代など、こういう本でも読まなければ解らなかった。この年代の学生は居場所を見つけるのは難しいのか。
S.Mori
1977年の芥川賞受賞作です。大学に入学したばかりの主人公「僕」が、偶然のようにして学生運動に巻き込まれて、途方に暮れることが描かれています。傑作。学生運動の限界が描かれているところが良いです。観念的すぎて、分裂していて暴力が使われることもあったようです。これでは社会を変えるのは不可能でしょう。これと対照的なのが2人の女性です。恋人のレイ子と母親は地に足をつけて生きており、政治よりもまず生活ありきです。現実的すぎますが、人間らしいと思いました。二人が仲良くなってしまう結末の苦いユーモアが好きです。
2020/07/27
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