一角獣 (角川文庫)
一角獣 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作を含めて短篇、掌編を合わせて8篇収録する作品集。共通するのは、冒頭の1文の歯切れの良さだ。例えば「初夏の宵、老妻が死んだ」、あるいは「夢を見ていた」、「夜は紫水晶のような色をしていた」など。漱石の『夢十夜』を思わせないでもない書き出しだ。これで私たち読者は一気に物語世界に引き込まれるのである。篇中では「あとがきにかえて」で作家自身が自画自賛する表題作「一角獣」がやはり一頭地を抜いて優れているが、「光きらめく海」なども捨てがたい魅力があるし、「妖かし」もその不分明さがいい。
2019/06/25
夢追人009
小池真理子さんの大人の男女の不倫の香り漂うエレガントな幻想掌編集。『こんな花あらしの日の午後は』永遠の夢まぼろし=究極のプラトニック・ラブ。『月影の中で』男は冷淡な女より多情な女が好きに決まってる。『柘榴の木の下』爺さんの死んだ婆さんと白猫への嫉妬心が消えて良かった。『雨の朝』死んだ男の香りを嗅ぎ続ける女。『闇のオンディーヌ』例え不幸でも今を愛する女。『一角獣』版画家の自殺と共に消えた猫を待ち続ける女。『妖かし』男を滅ぼす女は不幸にも嫌な奴しか愛せない。『光きらめく海』女は邪悪な海に溺れなくて幸いでした。
2018/12/09
ぐうぐう
幻想は、現実を乖離するから生まれるわけではない。現実を凝視するうちに、静かにふつふつと生まれ出でるのだ。あくまで幻想は、現実の中にこそある。小池真理子の短篇を読むと、いつもそのことを想う。掌篇から、かろうじて短篇と呼べる長さのものまで、8篇の小説が収められているが、そのどれもに幻想的な描写が存在する。けれどその幻想は、例えば抱かれる男の胸からする香りを嗅ぐ度にそれが女の作り出した幻の男の香りなのではないかといった、そういう描写だったりする。(つづく)
2019/04/26
そばかす♪
小池真理子さん初読みです。が、ふーん。。。という感じ。淡々としていて深い余韻は残らなかったかな。
2015/07/24
nekoぽん
言葉などいらない、そんな瞬間がある。指先に触れただけの、愛とか恋とか名付けようのない想いに震えた。そして言葉だけがすべてという繋がりがある。言葉を送りあうだけの何気ないやり取りが小さくても遠くまで届く光になって、ずっと心を照らしてくれることも。いつかの春風に舞う桜の花びらに泣きたくなる。同じ想いを一瞬でも感じることが出来たら。そう、生きていてくれたら、もうそれだけでいい。他には何もいらないのだと…もうこれ以上わたしには言葉に出来ない。
2020/10/02
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