スローカーブを、もう一球 (角川文庫 や 10-1)
スローカーブを、もう一球 (角川文庫 や 10-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
山際淳司は初読。表題作を含む8篇のスポーツ・ルポルタージュ。まず、この人の独特の文体と間合いがいい。一見したところでは、事実(実況)を淡々と積み重ねているように見えて、その実なんとも巧みに選手たちの感情や心の動きを伝えていく。そもそも構想段階から筆者の視座は分析的なのだが、その冷静さが逆に読者を揺さぶっていくのである。まさに、今自分がこのシーンに立ち会っているような躍動感を覚える。その臨場感を見事に演出してゆくのがこの人独特の手法なのだろう。表題作と、著者のデビュー作「江夏の21球」が、ことに秀逸。
2020/12/29
おしゃべりメガネ
とにかくスポーツ三昧の一冊です。【日本ノンフィクション賞】受賞作ですから、当然リアリティは見事で、その臨場感や緊張感は他のジャンルではなかなか味わうコトのできない感覚です。野球ネタだけの一冊かと思いましたが、野球だけではなくボクシングやスカッシュ、ボートなど多彩な種目での話もあり、テンポよく新鮮なキモチで楽しめました。個人的には野球大好き人間なのでやはり「江夏の21球」にはシビレましたし、’79年の高校野球で簑島対星稜の延長18回の熱闘を扱った「八月のカクテル光線」は胸にアツくこみあげるモノがありました。
2016/07/17
s-kozy
山際淳司さんの力作スポーツノンフィクションを8編収録。日本プロ野球史に残る名場面にして、ノンフィクションの名編でもある「江夏の21球」も収録。以下、「江夏の21球」より抜粋。「その息づまる緊張のなかを、カープの一塁手、衣笠が江夏のところに近づいていったことを記憶にとどめている人は少ない。江夏が佐々木を2-1と追い込んだとき、衣笠がマウンドに近寄った。そこで衣笠はこういったのだ。《オレもお前と同じ気持ちだ。ベンチやブルペンのことなんて気にするな》江夏がいう。《あのひとことで救われた(以下略)
2018/04/26
なる
スポーツを扱ったノンフィクション。このジャンルでの第一人者だそうです。全部で八つの独立した記事、といっても軽妙な文章で緩急の付け方がとても巧みで小説として味わえる。野球をテーマにした表題作や『江夏の21球』も良いけれど、『八月のカクテル光線』と『背番号94』は野球好きでない人にも勧められる。印象的なのは棒高跳び選手を扱う『ポール・ヴォルター』や、モスクワ五輪時のボート選手の『たった一人のオリンピック』。東京五輪の開催が不透明な今日現在、選手の身の振り方など様々な報道がある中で時代を越えて胸に迫る。
2021/04/02
ちょこまーぶる
スポーツへの感動や選手の純粋なまでの努力の輝きを感じられる素晴らしい一冊でした。8篇の短編集なんですが、それぞれの話には、それぞれのドラマがあり、読んでいるとその時代の選手の傍らでともに時間を共有しているような感覚になってしまっていました。中でも、モスクワオリンピックのボイコットに対しては、スポーツの世界への政治介入は、当時も世界的な問題になったが、それ以上に五輪を目指していた選手がいかに感情に折り合いをつけていったのかということも垣間見れて良かったです。やっぱりスポーツ関連の本は夢中になりますね。
2014/12/07
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