罪深き緑の夏 (角川文庫 は 10-2)
罪深き緑の夏 (角川文庫 は 10-2) / 感想・レビュー
nobby
冒頭から描かれる“蔦屋敷”と呼ばれる洋館での美少女 百合姫との出逢いと妖しき野草への誘い、次々と目にする不可思議な事象が創り出す耽美な世界が素敵だ。ともに画家でありながら、脚光を浴びる兄とそれにぶら下がる無名な弟の羨望と嫉妬がぶつかり合う。その周囲に降り掛かる火災や薬物による作品の破損、事故による兄の婚約者が被る障がいなど不幸の数々の意味は…何より謎めき曰く付きな人物達が魅力的。加えて、ジャンヌ・ダルクや青髭男爵などの引用で相対する果敢と狂喜を紡ぎ出すのが絶妙。そしてまた背徳と哀愁に浸るうたかたの切なさ…
2018/08/27
papako
mii22さんのレビューで。蔦の絡まる洋館、夏の日の邂逅。美しい兄妹、画家、旧家、義理の兄弟。これでもか!というくらい舞台装置が豪華でてんこ盛り。そして起きる事件。しかし事件よりも妖しい登場人物たち。……が多く、いやでも盛り上がっていきます。太郎の想いがあまりにも切ない。そりゃそうだよ。なさぬ仲の弟と義母、そして自分の父が目の前で家族として生きている。弟への嫉妬。そんな単純な想いではないと思います。いろいろ置き去りにされたこともあるけど、最後まで惹きつけてくれました。
2018/08/10
HANA
少年の夏の一日、山奥に建つ洋館「蔦屋敷」を訪れた少年。日本が舞台にも関わらず小泉喜美子『血の季節』のような異国情緒漂う発端。さらには起こる事件も謎めいた火災に自動車事故、破損された絵と、事件自体は現実的なものにも関わらず、集う画家や作家たちに「青髭」「人形」「フレスコ画」「ラプンツェル」「ジャンヌ・ダルク」といったキーワードから、ミステリにもかかわらずどこか浮世離れした遠つ国の物語を読んでいるような気がする。真相を当てるというよりも、この物語の幻想に浸る、そんな読み方が出来、実に満足な一冊でした。
2020/08/13
みっぴー
『2018夏物フェア』第一弾。ひたすら耽美。蔦に覆われた洋館、美少女、少年、絵画、嫉妬、羨望、、、。謎は謎のままなのですが、それすらも魅力的に感じます。熱海の蔦屋敷で出会った百合姫に長い間想いを寄せる淳。しかし百合姫は、パーフェクトな兄のフィアンセ。画家として国内外にその名を馳せる兄、なかなか芽の出ない淳。兄の個展の最中に火災が起き、それからも次々と不幸な事件が、、、。誰の本音も分からない。みな何かにとりつかれているような人達です。夏にぴったりの幻想に満ちた世界でした。
2018/07/06
みみずく
12年前の夏、熱海の洋館「蔦屋敷」で美しい少女に出会った淳。その、百合という少女を忘れられなかったが思わぬ形で再会する。それは交通事故で半身不随になった姿で、そして美貌の兄の婚約者として…。舞台装置、「青髭」と噂される蔦屋敷の主人…全てが妖しく、ゴシックロマンの雰囲気を醸し出している。ただ語りがゴツゴツとしていて素直に入り込めなかったのが少しだけ残念。でも銅版画家でもある作者の美意識の高さと、それを文章にして独特の世界を構築しているところはすごかった。
2015/07/05
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