海の鳥・空の魚 (角川文庫 さ 24-1)
海の鳥・空の魚 (角川文庫 さ 24-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
鷺沢萌は初読。本書は20の掌編からなる小説集。主人公はいずれも20代の男女(一部例外も)。これはもう明らかに都会の文学だ。それぞれの時の、それぞれの一瞬の煌めきや躊躇いを掬い取っている。いい意味でも、またそうでない意味でも軽快だ。そこに生の深い意味を求めることはできない。しかしまた、それらも確かな生の軌跡である。この作家は、生のある断片を切り取って見せるのが実にうまい。鷺沢萌。彼女自身の生は想像通りとはいえ、あまりにも儚い。彼女はこの世にとうとう錨を降ろすことはなかったのだろうか。作家の生こそがせつない。
2017/03/19
kaizen@名古屋de朝活読書会
表紙の絵が素敵なので手に取りました。 萠 鷺沢(めぐむ さぎさわ) 群ようこさんが解説を書いています。 すべて短編 21。 最初の「グレイの層」 著者の姉かもしれない登場人物。 最後のページをめくると,ただ一行。 「ねえ,わたし、あなたと結婚したい」 ここまで余韻を残して断言できる展開に唖然とした。 読んでよかった。
2013/05/07
新地学@児童書病発動中
これは非常にお勧め。都会の日常生活の一齣を鮮やかに切り取った作品集。読み終わった後に人恋しさが胸に溢れてくる。ここに描かれている登場人物たちは、みんな私たちと同じものを抱えていて、それは恋人との恋愛だったり、かなえられそうでかなえられない夢だったり、しんどい仕事だったりする。みんなさびしかったり、途方に暮れていたり、小さな幸せを噛みしめていたりするのだ。生きていくのは大変だけれど、とにかく前を向いて生きていこうよ、という作者の呼びかけが聞こえるような気がして、温かい気持ちになれた。
2017/03/26
おいしゃん
苛立ち、悩み、もがきながら生きる若者たちが主人公の短編集。どれも電車で一駅の間に読めるくらいの短さなのだが、彼らが次の一歩を方向が定まっていくさまを見届けられ、心地の良い作品だった。
2016/05/09
夜長月🌙@新潮部
いろいろな人の人生の一瞬を切り取った作品が並んでいます。その瞬間の価値は体験している時にはわからないかもしれません。けれど後で振り返るとそれがとても貴重な出来事だったと気付くことがあります。日本にいるヨーロッパ人が日本について「日本というとても小さな枠の中でその中の価値感だけ」を信じる危うさを説きます(東京のフラニー)。駆け落ちのようにして出て行った一人娘がたった一本の傘にも困窮して実家に傘を取りに寄ります。父は傘だけでなくありったけの思いやりを渡します(柿の木坂の雨傘)。
2023/12/03
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