山師トマ (角川文庫 リバイバル・コレクション K 48)
山師トマ (角川文庫 リバイバル・コレクション K 48) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
自分の身分をごまかすことで、大人の世界で成り上がっていく少年トマを描く小説。トマは自分のことを有名な将軍の甥だと称して、軍隊に入り衆目を集めるようになる。繊細できらびやかな文体が見事で、コクトーの詩的な感性がいかんなく発揮された作品だ。醜い戦争さえも、この作者の感性のフィルターを通すと、童話のように見える。ただし、トマの生き方は危うさを孕んでいる。虚と実のはざまを漂うにして生きるので、読んでいると読者は、はらはらした気持ちになるのだ。結末ではそれまでの物語の雰囲気が一転して、戦争の残酷さが浮き彫りになる。
2018/02/06
syaori
物語は戦争で政府がボルドーへ移った後のパリから始まります。ド・フォントネー将軍の甥をかたるギヨム=トマもド・ボルム夫人もヴァリッシュ夫人も、戦争に何かー名誉、快楽、利益を夢見ている人物。このばかばかしい劇の大詰めは作者も言うとおりギヨムの死の場面で、ここは確かに「牝鹿が王女に変つた瞬間」なのだと思います。この魔法でド・ボルム夫人は老け込んで、観客のアンリエットは悲劇のヒロインに、何者でもなかったギヨムは真のド・フォントネーになるのでしょう。この効果の見事さに、コクトーにしてやられた感でいっぱいです。
2017/06/23
双海(ふたみ)
「彼女は肉体の内にも外にも、伸び、綻び、花と咲いているのであった。彼女はまことの悪魔であり、青春の祝祭を司る人であった。」
2014/08/02
qoop
なりたい自分になる…という何かのキャッチコピーのような生き方。その点、邦題を裏切り、主人公は山師や詐欺師の類ではない。出自や現状と無関係に、過去や未来とつながりのない〈今〉という瞬間だけを、刹那を生きる。悲劇を背負わず混乱を好みながらも衒いのない自然さは、現代的かつ都会的、そして軽薄で浅薄。戦争さえ洒落のめす、その生き様の見事さ。周囲の人物の描写を含め、読んでいてえも云われぬ高揚感に包まれた。
2015/09/22
hirayama46
コクトーの書く文が詩的だったためか、翻訳に少々古さがあったせいかはわかりませんが、文意が読み取りづらい部分が散見されて、なかなかに苦戦しました。短い物語ではあったのですが咀嚼は難しかったです。
2018/11/30
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