アメリカン・サイコ 上 (角川文庫 赤 エ 1-1)
アメリカン・サイコ 上 (角川文庫 赤 エ 1-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
作中にトランプ大統領夫妻の名前が登場するなど最先端のアメリカ文学。1992年の刊行。物語の時間は1980年代後半。細密画のような描写を特徴とする。とりわけ作家の鋭意が傾けられるのが、着衣をはじめとした身に付けるもの全般。主人公パトリックの視線は常にそこに向けられる。彼にはアルマーニとエンポリオの混同はあってはならないこと。ついでの細密描写が殺人とセックスの場面である。いずれも、ことさらに生々しく、細部にいたるまでが執拗なまでに具体的に描かれる。まさにそこにパトリックのサイコたる片鱗が湧出しているのである。
2023/05/03
ケイ
ロスに比べてニューヨークは…、っていうタクシーでの最初の会話が、暗示している。仲がいいようで、でもいつも気になっている。何を食べ、どこで食べ、どこに行って、何を着て、そんなことを何気なくこなしているようにしてみる。焦燥感にかられてする…、それは本当にしたいことではない。彼が均衡を保つためには、異常な性欲と残忍さへの欲望が満たされなければならない。これは、お金持ちの国、アメリカで、流されるままに一流であろうとするが、生まれながらの超一流ではなく、お金を稼ぐ手段を持つ者、彼らに訪れる精神的な破壊。
2016/03/06
扉のこちら側
2016年149冊め。【139-1/G1000】執拗に繰り返される自宅、職場、音楽、レストランやクラブ、レンタルビデオ、クリーニング店、ホームレスへのからかい等の「記号」。それらのルーチンの中に、生きたまま人を嬲り殺すことが同レベルにある男。下巻ではますますエスカレートしていきそうだ。
2016/03/06
みや
体裁に固執するエリートビジネスマンであり、残虐なシリアルキラーでもある男性を描くサスペンス。服装や持ち物など様々なブランドと情報の羅列に序盤は辟易した。流行に執着し、高級品で身を包み、美容に拘り、同じ媒体から情報を得る同僚と内容の無い会話を繰り返す。あまりの読みにくさに不安を覚えていたら、突然気付いた。偶然会う同僚や友人を間違えたり、逆に間違えられる場面が何度もあるのだ。彼らの周りでは誰もが同じように生き、個性が欠落している。その闇に気付いてから、一気に好奇心が増した。下巻では殺人鬼の彼をもっと見たい。
2017/11/19
田中
1980年代の好景気(バブル)を思いだす。スーツや装身具は全てブランド品で彩り、雑誌に載ったお洒落なバーやレストランでデート。なぜか知らないがお金はある。偏執的なブランド名のこだわりと、所有する高価な物品を徹底的に具象化する。過剰な自己陶酔と、見当違いなのりの良さ。僕には懐かしい。ある意味で素晴らしくビューティフルな時代。でも、これは、紙一重で異常な世界に取りこまれた人だろう。村上春樹さんがこの本について書いてます。「社会的状況資料として、これくらい自己犠牲的にシニカルで本質的な小説はちょっとない」
2020/05/19
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