アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)
アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ある意味では典型的なビルドゥングスロマンなのだが、ただし、これはもっぱら精神の鋭意における成長の軌跡の物語だ。そして、それはまさにタイトル通りに、少年がアルケミスト(錬金術師)になる過程を描くのだが、読者にはかなり早い段階から「宝物」が、物質的なものではなく、精神的なものであることは予想がつく。そして、それこそがまさに「賢者の石」に他ならないのである。湿潤で日本的な気候風土からは限りなく遠い砂漠の光景は、それだけで私たち読者を遥かなロマネスクの世界に誘う。そこは静寂と星々の煌く孤独の表象世界だ。
2014/09/26
ヴェルナーの日記
数多くの示唆を与えてくれる秀逸な1冊。本書のあとがきにもあるように、どことなく『星の王子さま』を髣髴させる。物語は単純であるのにもかかわらず、出来事の1つ1つがメタファー(隠喩・暗示)が込められていて、読者に不思議な感覚を味わせてくれる。探索の旅という形をとりながら、人生の旅を暗示する内容は、大人でも十分に楽しめる内容に仕上がっているのではないだろうか?
2015/03/02
ehirano1
再読。著者は中村天風の著書の愛読者ではないかと思うくらい至る箇所に彼の箴言と同様のことが記述されていたので驚きました。特に、「運命を全うすることについての責任」、「恵みへの感謝」、「サインや前兆」、「自分の心」に係る箇所は全く一致していました。物語の場所は”世界最強の商人”に近いように思いますので読み比べるのも一興かもしれません。
2016/05/21
zero1
とてもスケールの大きな作品。 日本人作家で描くことができるだろうか? 初期の司馬遼太郎に近いかもしれない。 「旅のラゴス」という人もいるはず。 この作品に出てくる「マクトゥーブ」という言葉。 イスラム世界での運命論を意味する。 大長編の映画「アラビアのロレンス」にもキーワードとして出てくる。 スペインの少年サンチャゴは、王に出会う。 そして宝を探すための旅に出る。 苦難の末、彼が見たものは? テーマとしては「青い鳥」や「オズ」に近い。 両作品を読んだ方ならその意味が理解できると思う。
2018/10/20
またおやぢ
リオデジャネイロオリンピック開催に併せて再読。初めて読んだのは20年前。少年の成長を描いた冒険譚であり、周りの評判も高かった事もあり手にしたのだが、単調で予定調和ばかりのつまらない物語だと感じたものだ。あれから20年。読み返して思うのは、世の中はマクトゥーブということか。一日一日を大切に生きることこそが錬金術であり、自らにとって大切なものは、身近に間違いなく存在していることを示唆している一冊。「諦めなければ夢は叶う」とは訳者の言であるが、そんな単純な話ではないと思うのは、私が齢を重ねたという事なのだろう。
2016/08/14
感想・レビューをもっと見る