犬の力 下 (角川文庫 ウ 16-5)
犬の力 下 (角川文庫 ウ 16-5) / 感想・レビュー
ミカママ
【原書】メキシコの麻薬カルテルと、なんとか米国内への麻薬流入を防ごうとするDEAエージェントの闘い。そこに描かれるのは殺戮・虐待であり、裏切りであり、憎しみであり、愛情、そして悔恨と赦しである。綿密な取材に基づいたフィクションではあるが、映像を観せられているかのような生々しい描写、ヒリヒリ痛むようなブレのない筆致に一気読みさせられた。わたし自身はもちろん主役のひとり、ノーラになりきって。 原書:https://bookmeter.com/books/2667699
2020/06/11
W-G
大満足。ラストに向かって二転三転、登場人物の関係性もコロコロと入れ替わり加速度を増していく。アダンが頭角を現してからの展開は本当にページをめくる手が止まらなくなってしまう。特にノーラとカランの繋げ方が非常に上手く、要所要所でその二人視点の章になるので、読むのを止められなくなる。二人のその先を明かさないのもニクイ演出。それまでの流れからいえば、明るいだけの未来なはずがないのに、どこか救いを感じる不思議な余韻。もうこの時点で『ザ・カルテル』が面白くないはずがない。
2018/04/25
ヴェネツィア
上巻はマチスモの横溢する、暴力と殺戮に満ち満ちたシーンの連続だったが、下巻ではそれが沈静化し、いたって政治的な次元で語られることになる。もっとも、読者である我々が惨殺に慣れただけかも知れないし、あるいは目前の小集団での戦闘が、より巨大な国家的規模の掃討に眼を覆われてしまったせいで鈍麻してしまったようにも思われる。ウィンズロウの大風呂敷はFARC(コロンビア革命軍)から、果ては中国人民解放軍へと、留まることがない。あるいは、それこそが真実であるのかも知れなのだが。終幕ではアートの寂寥感と虚脱感を追体験⇒
2019/07/15
徒花
上巻はちょっといろいろな立場の人間がゴチャゴチャやっていていまいちのめり込めなかったが、キャラクターが整理されてくると(つまり死んでいくと)、筋道が比較的スッキリすると共にある程度キャラクターに愛着がもてたり、物語の行き着く先がおぼろげながら見えてくるので、楽しんで読み終えることができた。個人的には“大桃”のコメディリリーフ的な立ち位置が好きだった。あと、なんだかんだでそこはかとないハッピーエンド感のある一陣のさわやかさも嫌いじゃない。読むのはたいへんだが、読む価値はある。
2017/08/02
みも
複雑な相関関係と錯綜する人間模様…全貌を掌握出来たかどうか、甚だ心許ない不如意な心持なれど、途轍もない傑作であると断言出来る。血で血を洗う麻薬ビジネスに係る暴虐の30年。人間の中の「義」と「邪」がせめぎ合う。愛憎、背信、敵愾心、復讐、虚実、悔恨、悲哀、戦慄…横溢する情動の坩堝が魂を搔き乱す。心に根付いた人物達が次々と葬られる苛烈さに胸を抉られ、加速度を増す疾走感と緊迫感に比例して心拍数は跳ね上がる。帰結点はこれ以外にないと思われる精妙な構成。甘過ぎず、非情過ぎず、そしてロマンスの残像…。翻訳も素晴らしい。
2021/03/19
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