月と六ペンス (角川文庫)
月と六ペンス (角川文庫) / 感想・レビュー
読書ニスタ
ゴーギャンの生き様を創作も交えながら描いたもの。ただの子煩悩で愛妻家の男が、40過ぎのある日、突如として蒸発。全ての価値観を捨て、乞食のような生活、なりたかっただけの画家になる。生きることに意味などない、愛のある生活を己の才能に賭ける勇気がないだけと喝破する。俗世を嘲笑い見下しながら、その絵だけは無類の美が宿っている。生き血を啜るが如く生み出された絵画に、美を美と認めざるを得ないのか。私たる作者モームはわからんと正直だが、時代を変えてしまう事象は後に評価されるのだろう。いつしか、上書きされるその日まで。
2020/04/12
テツ
平々凡々な小市民でしかなかったストリックランドが突然目覚め、目指し始めた絵の世界。芸術の世界。彼はそこに至るためにどんなことも厭わずどんな大切なひとも顧みない。ただただストイックに、独善的に、悪魔のように、自らの道を邁進し続ける。自分の本当の場所に至ることだけを目標にするのなら、どんなことにも縛られてはならない。全てを踏み台にする覚悟と狂気を保ち続けなければならない。僕たちにはそんなこと出来ないよね。でもそうして、どんなものとも交換不能な大切なものを見つけた男には憧れる。こんな生き方をしたくはないけれど。
2019/03/23
うめ
序盤があまり面白く感じられずになかなか進まなかったけれども、中盤以降からぐいぐい引き込まれる。1人の画家を通して、人生とは、芸術とは、そして、女の性とは、について色々考えさせられた。思うままに生きる事を貫こうと思ったなら、そのことによってどれだけ誰かが傷つこうとも、日和っては駄目なのだな、と思った。全てを背負える覚悟がないのなら、思いのままに生きてはならない。凡人には出来ない生き方を通し、天才を浮き彫りにしているのかもしれないし、月に焦がれペンスをまき散らす生き方の記述はある種の芸術の体現かもしれない。
2017/06/28
baboocon
新潮文庫でも読んだけれど、先に買って積んでいた角川文庫版で再読。やはり、序盤の数十ページは退屈ながら、チャールズ・ストリックランドの強烈な個性に引き込まれる。初読の時にも思ったけれど、40歳までごく平凡な証券マンだったストリックランドを、家族も何もかもなげうって画を描くという道に駆り立てた衝動はなんだったのだろう。
2014/12/14
えむ
チャールズ・ストリックランド(タヒチ島で全身を病魔に蝕まれながら最後まで絵筆をおかなかった画家。解説より(六ペンスというのは英国の銀貨の中で、最低額である。口語で、わずかなもの、くだらないものと同義語に使われるくらいである。したがって月と六ペンスとの対比はごく高尚なものとごく卑小なものを象徴している。主人公が追及してやまない芸術の極致を月とし、名誉や立身出世や財産を人生の第一義と考えている凡俗の人びとの理想を六ペンスとしたのであろう。)2015-47
2015/06/22
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