鎮魂歌 不夜城II (角川文庫 は 21-2)
鎮魂歌 不夜城II (角川文庫 は 21-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『不夜城』の続編。物語の舞台は、やはり新宿歌舞伎町界隈。正編の主人公、健一は健在だが今回は裏に回っている。代わって表舞台を駆け巡るのは、台湾人ヒットマンの秋生。そして、脇を固めるのが元刑事の滝沢。さらにはダーティヒロインの家麗。そして、上海と北京の対立する裏社会集団。さらにはヤクザ組織も。物語は幕開きからエンディングまで徹頭徹尾暴力とセックスと血の匂いに満ち満ちている。文字通り徹底したノワール小説である。そうした中で、唯一抒情の余地を持っていたのが秋生の夢―すなわち「犬を飼いたかった」というフレーズだ。
2019/09/01
のっち♬
北京の裏切り者を捜す元悪徳警官と上海の女をボディーガードする凶手。対立する健一と楊偉民の暗躍により読者は前作以上に混沌とした猜疑と欲望の渦に翻弄される。悪運も強くて柔軟性豊富な狡い設定だが、綿密で大掛かりな構想と目眩く変転はそこを承知していても圧巻。共感を更に拒絶した造形からも意欲が窺われ、緊迫する空気に惹き込まれる。疲労する程の複雑さに、気がつけば過激化した暴力や性的倒錯、一方通行の慕情を冷ややかに眺めていた。健一の介在がそうさせるのかも。サディズムとホモの結節、滝沢の際限なき転落ぶりも著者の持ち味か。
2022/12/13
ナルピーチ
前作から2年、二人の男と一人の女によって落とされた新たな火種…。歌舞伎町は再び修羅場と化していく。一作目よりも更にハードボイルド。暴力的で残忍、卑猥で痛ましくなる程の性的描写の数々。そんなマフィア達の抗争を文章としてリアルに表現し、生々しく見せつける。弱肉強食の世界で生き残るのは誰なのか。最後に立って笑うのは誰なのか。『鎮魂歌』と付けられたそのタイトル。多くの死者を慰めるためのものなのだろうが、すべては深い闇の中での出来事。得体の知れない何かが蠢く気配だけがヒシヒシと伝わってきた。
2022/09/17
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
デビュー作にして傑作『不夜城』の二年後を描いた続編。第51回日本推理作家協会賞受賞作。新宿歌舞伎町を舞台に裏社会に生きる男たちの非情な世界を描いた作品。生きるために裏切りそして殺す。ラストに向けて一気に加速する破滅への道程は正に滅びの美学そのものか。ただ、馳作品に惹かれる本当の理由は、圧倒的な暴力の中に存在する哀愁、切なさ。「望んでも決して手に入れられないもの。目の前にあって、どれだけ手を伸ばしても触れることは叶わない。」それがある限り、男たちは命を張ってただ突き進む。正に渾身の傑作ロマンノワール!
2018/12/20
佐々陽太朗(K.Tsubota)
いやはやなんともすごいノワール小説であった。ここには愛やら正義などかけらもない。金、セックス、快楽のためなら他人を踏みにじり搾取することを躊躇わない。食うか食われるか、弱いヤツは限りなく奪われる。”弱い”となめられることは死に繋がる。面子が傷つけられたらそれを回復すべく徹底して報復する。でなければ弱者に身を落とし奪われる側になる。殺られる前に殺る。命と面子をかけた殺しと復讐の連鎖はどこまでも続く。どんなことをしても生き残る、それだけが目的であり、生き残った者が正義となる非情な世界はいっそ清々しい。
2021/06/12
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