長恨歌 不夜城完結編 (角川文庫)
長恨歌 不夜城完結編 (角川文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『不夜城』の完結編。ここでも劉健一はもちろん物語のキーコードなのだが、本編の主人公は語り手でもある「おれ」(武)。日本国籍を持ち、中国語と日本語とを操る偽残留孤児だ。頭は悪くはないが、力も地位も何もないあぶれ者に過ぎない。その上、いつも誰かに、また何かに追われている。その負のエネルギーが持つ緊迫感が最初から最後まで全編にわたって持続する。ヴァイオレンス続きなのだが、読者を飽きさせることがない。馳星周の筆力の高さを証するものだろう。武と健一がそれぞれに抱えるトラウマもまた物語に緊張を強いる。
2020/01/14
ナルピーチ
前作から更に数年の月日が流れ、冒頭から前2作でもキーパーソンを務めた人物のあっけない幕引き…。衝撃的なスタートで口火を切った本書。先の展開が全く予想出来ずひたすらに頁を捲る。新たな人物達によって明らかになる過去。負の遺産を巡った壮絶な騙し合いの成れの果てとは…。いつまでも歌舞伎町のどこかであの悪鬼は恐怖と憎悪を漂わせながら影を潜めているのだろうか。『完結編』と謳われているのでこれ以上の続編が描かれる事はないのだろうが、外伝という形でまたこの世界を堪能できたらいいな。不夜城3部作、極上のノワール小説でした。
2022/09/19
のっち♬
戸籍の秘密と幼馴染を守る為に健一に立ち向かう武。7年越しの完結編。過去は仄めかし程度で前二作読了者としてトラウマや偏執は察するしかなく、それで通す分主人公の魅力はない。筋はストレートになり暴力性も控えめで、疲労を覚えずに読み進められる。かつての有無を言わさぬ凄みは根無し草視点では体現されない。偉民の栄枯盛衰やサブキャラの再登場などピースを埋める要素もあってファン向けな印象。マイナスエネルギーをスピード感や緊張感に転化させる手腕は円熟。不明瞭で呆気ない幕切れが虚無へ誘う。完結編らしい重みがもっと欲しかった。
2023/01/14
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
とうとう終ってしまった?ベストセラー『不夜城』、その2年後を描いた『鎮魂歌』に続く完結編『長恨歌』。『不夜城』を読んだときの衝撃が忘れられずに本作まで。シリーズものの宿命で、読者のテンションを上げ続けることは難しい。本シリーズもある意味『不夜城』で完結していたのかもしれない。しかし、第二部で見せた別作品とも思える衝撃、そして第三部の本当の意味での静かな終焉は、ファンとしては見逃せないところか。歌舞伎町を舞台に、どの道を選んでも救われることのない世界で見せてくれた男たちのロマン。大切に心に留めておきたい。
2019/02/05
ゆいまある
大好きな馳星周。大好きな不夜城シリーズなのに、主人公の李基がどういうキャラか掴む前に、李基の思い出の女性が現れてあっという間にキャラ崩壊。流れがいつもと違っていて本当に馳星周が書いたのかなと思いながら読む。暴力シーンも殆どなし、セックスシーンもなし、片想いはあっても成就しない。淡々としたこの暗さ。健一が李基に執着する理由も、李基の過去の女性のエピソードもピンとこない。でも段々その意味が分かってきてその世界に浸れる。ラストの救いのなさはやっぱり馳星周。
2019/01/27
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