したたるものにつけられて: 自選恐怖小説集 (角川ホラー文庫 83-1)
したたるものにつけられて: 自選恐怖小説集 (角川ホラー文庫 83-1) / 感想・レビュー
安南
『田之助の恋』は正統的幽霊噺ながら、幽霊そのものより生きている人間の我執妄執の恐ろしさを感じた。それは収められた他の作品全般に云えることで、同じく歌舞伎役者を描いた『葺屋町綺談』などはその最たるもの。久々に恐怖に慄いたのは江戸時代の史実風の作品『流れる』不条理が導く狂気の連鎖がおぞましい。傑作!倦怠した日常が我執に取り憑かれた女によって狂気の非日常に取って代わられる『悲歌』『走る女』『したたるものにつけられて』の3作は《欲望する女》に対する男達の根源的恐怖心がとてもよく描かれていた。
2015/04/10
じゅんぢ
前半の「悲歌」から「流れる」までは面白かったけど、後半の4作品は自分にはあわなかった。
2019/01/15
メタボン
☆☆☆☆ 自選という割には玉石混淆の印象が否めない。玉は追いかけられることにエクスタシーを感じる「走る女」、シャッター音が連続する表題作、実在の歌舞伎役者を主人公に妖しの世界を描く「田之助の恋」とその兄弟篇とも言える自分の身体を傷つけてまでも舞台にこだわる歌舞伎役者を描いた「葺屋町綺談(原題は再臨)」。「悲歌」「ゴブリン」は良くわからなかった。「星空」は世界の終末を知った人はどう行動するかといったSFでは良くある話。川から死体が「流れる」。中国の皇帝の孤独と残虐性「東昏侯まで」。奇談物を書くと上手い。
2021/11/23
キナコ
図書館本。SFホラー作品混じりの短編集。ふとした出会いから非日常へと変化していく様子が、背中をぞわりと言いようのないものが走る。最後まで読んだあと、とにかく人間の執着心の怖さにびっくりする。中には本当にこんな人いたの?と疑いたくなるくらい壮絶な人生の人もいた。「田之助の恋」「葺屋町綺麗談」「星空」「東昏候」は特に印象に残る作品。
2021/10/30
九鳥
小林恭二とホラー文庫の取り合わせに違和感を覚えたが、意外としっくり。読んでいる最中は怖くないけど、後味の悪さにじわじわ来た。「流れる」と「ゴブリン」は好きな作風の短編。前者は川を流れてくるものの描写と村人の心理がグロテスクなのに、文章自体は軽妙でひたすらバカバカしい。実在した歌舞伎役者の物語「田之助の恋」と、「葺屋町綺談」がやっぱりなんと言っても強烈。役者の業ならありえる話とも思う。
2009/10/21
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