13 (角川文庫 ふ 18-1)
13 (角川文庫 ふ 18-1) / 感想・レビュー
さっとる◎
無駄に溢れかえった色彩に埋没した私に天使はみえない。人が森を作り森は色を生んだ。その中でただ息苦しいほど濃密な生の気配を感じる。生きるものと死した霊とが重なり合う世界で起こることが起こり、表に現れた現象に人が、土地が、時勢が、見出だす勝手な奇蹟。人が求めた神の意思がそこにある。起こったことが起こったことに神の意思がない故のあやまちも。境界だらけのリアリティ、でもあらゆる生命の霊がいる世界が、境界なんて本当はなくてすぐそこに重なっていることを知ってしまったから。裂け目を作る、そこから原始の神の色を幻視する。
2019/01/25
さっとる◎
これは傑作。古川日出男デビュー作。生命力に溢れ色が溢れ熱が溢れ、くらくらする。先が気になるのに物語の筋とかどうでもいい気もしてくる。色で、音で、言葉で、日常を超えた世界を叩きつけられる。活字と物語では表現しきれない領域を、活字と物語でしか表現できない小説というかたちに落としこむ。聴衆を意識しない、物語としてある物語。小説家古川日出男が極彩色で詰め込まれた作品、な気がする。物語世界でしか表現できないこと。それをそうと意識して作品を創り出す作家さん。リスペクトだな本気で。好き嫌いは分かれるんだろけど(笑)
2016/08/05
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『一九六八年に東京の北多摩に生まれた橋本響一は、二十六歳の時に神を映像に収めることに成功した。』_冒頭の一節だけで「物語」を超える作品を描き出す作家がどれくらい存在するのだろう。有象だが、視えないと言う理由だけで無象のフリをするものがある。小説に、物語に、文章に、文字に、印字された黒いシミに、彼は鮮やかな極彩色に彩る事で無象のフリをするものを、さらには無象のものさえも視えるものへと形を浮き彫りにさせる。そこに私は、色彩の天使を視る。こんな本読んだことがない。表現できる言葉を私は知らない。
2018/08/17
あんみつ
《ネタバレ?》片目の色盲によって2つの視覚世界をもつ響一。小説中には宗教的、文化的、人格にいたるまで様々な2つの世界が常に存在し、片方が消滅の危機にさらされる。また外的要因によってアイデンティティは翻弄され続ける。前半は登場人物も読者もその重みに縛られていく。後半は掛け違ったボタン「欺瞞」による呪縛が一気に解けていく様が劇的。デイビッドのよって、また響一の蒔いた種によって。あの時響一はローミを救えなかったのかと落胆したがそうではなかったんだ。暗闇を抜けて光がさす結末。素晴らしい。
2013/04/09
プロムナード
読み始めてすぐ五感に伝わるジャングルの熱気が、ただごとでない小説だと教えてくれる。びっくりするのはリアリティというより、物語が次々と溢れ出す想像力の横溢感だ。例えば作中で響一が語る「犬の少年」のエピソードひとつとっても、数ページなのに凄まじい物語強度で迫ってくる。著者の頭から次々吐き出されるイメージの奔流。それがひとつの物語として収束しきらずに拡散してしまうのはちょっと惜しいけど、そのあたりはこの後に描かれる傑作たちで実現している。一応のデビュー作ということだが、とんでもない作品だと思う。
2016/09/19
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