とんび (角川文庫 し 29-7)
とんび (角川文庫 し 29-7) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
重松清の自身の父親への答礼歌。ここでも当然いつもの重松節。安定しているというか、プロフェッショナルというか。物語は最初の一章を読んだところで、ほぼ最後までプロットが想像できるし、またその通りに進行してゆく。あたかも「フーテンの寅さん」か、「水戸黄門」のように。それでも「ヤスさんの上京」での海雲和尚の手紙には涙がこぼれそうになる。(実はこぼれたのだが)思いっきり通俗的と思いつつも。うまいと思ったのは「由美さん」の章。実に巧みに変化球を投じながら、物語の収束に向けて加速させていくテクニックは、さすがに見事だ。
2017/04/05
HIRO1970
⭐️⭐️⭐️実家借用本。重松さん初級者ですが、この本は今までで一番相性の合うお話でした。愛情というものは鼻を突き合わせている時は深く激しいほど疎ましくすら思えるのに、ひとり遠く離れて見て初めて陽炎のように立ちあがって有り難みが見えてくるものでもあります。子供や孫を視野に入れて漸く見えてくる数十年前の親心もあります。言葉にすべきことと冥途まで黙って抱えて行くことも含めて愛情表現は千差万別で未だに正しく伝える上での迷いの多さを断ち切れぬ私は自分の中のやしゃんに激しくシンパシーを感じました。オススメです。
2015/05/18
yoshida
お互いに天涯孤独のヤスさんと美佐子さん夫婦。二人に長男のアキラが生まれ人生の幸せを噛み締めるヤスさん。職場での突然の事故で美佐子さんが急逝し、ヤスさんとアキラの親一人、子一人の奮闘の毎日が始まる。不器用で照れ屋なヤスさんのひた向きなアキラへの愛情。そして二人を取り巻く人々の沢山の愛情にふれ、何度も泣かされる。これはアキラの成長とともにヤスさんの成長の物語でもあると思う。様々な事柄に悩むヤスさんとアキラ。彼らを沢山の「手」が支えてくれ、二人は成長すり。不器用ながらも懸命に生きる人々の姿が心に響く作品です。
2017/11/11
よこしま
お前は海になれ!◆一度TBS版でのドラマを観ていた時も泣きましたが、やはり原作でも涙が出てしまいました。◆ヤスさんは本当に不器用なんだけれど筋の通った、いい父親でしたね。またアキラも、ヤスさん男親一人で育てられたというよりも、飲み屋のたえ子さん、和尚さん一家ら温かい周囲に育てられて、ほんと成長したと思いますよ。美佐子さんも天国から、ずっと安心して見てくれてたんだなと。◆一番泣けたのは、レビュー冒頭に上げた和尚さんが、全員を連れ寒い中での「海に降る雪」の言葉です。本当に温かい人たちばかりでした。
2015/03/15
のっち♬
騒々しく、乱暴で、涙脆い父親と温厚で優等生な息子の長い旅路。昭和の不器用な父親を描かせたら他の追随を許さない著者の面目躍如たる傑作。「責任より愛」を訴える部活の挿話も印象的だが何より出色なのは受験編、子離れできない親の寂しさ、哀しさ、愚かさをひりひりする程に表出させている。息子の結婚では、大切なのは子供に自分の幸せを押し付けることではなく「寂しい思いをさせるな」というメッセージ性が集約されている。悲しみも寂しさも知らん顔で呑み込む愛情の海の上で、今日もとんびと鷹は時代遅れで色褪せない物語を紡ぎ出してゆく。
2021/07/19
感想・レビューをもっと見る