山谷崖っぷち日記 (角川文庫 お 42-1)
山谷崖っぷち日記 (角川文庫 お 42-1) / 感想・レビュー
GAKU
人間社会への過剰適応意欲の反動で、普通に組織で人と関わって仕事をする事が出来ない、自らを人生に向いていない人間なのだと語る著者。自ら進んで人と関わらず孤独に生きるために、山谷の日雇い労働者として生きてきた日々の生活を書いた、第9回開高健賞受賞作。山谷という特異な場所にありながら、ただ個の生活と感想をありのままに綴り、そこから著者に特有な価値観と知性がにじみ出てくる印象を残す体験記。なんか世のしがらみを捨てた、仙人みたいだ。著者はこれ1作しか書いておらず、希少な作品に巡り合ったと感じた。
2016/01/09
z1000r
おもしろかった。この作者は積極的に山谷に来て、客観的に山谷を見ている気がした。山谷住民では異端児の部類だろう。 ふと、THE MODS の LOOSE GAMEという曲が頭に浮かんだ。
2018/12/08
うたまる
「つまるところ、私は人生に向いていない人間なのだ」……山谷のドヤ街に生きる著者の人生記にして、衝撃の大当たり。自身の生活破綻の原因を人間社会への過剰適応意欲の反動として捉えているが、そのような点は我が身にもあり、彼の人生観、人間観、社会観には共感できることが多かった。中でも「ここに私が来るまでの過程で、私を原因として不幸になる人々を極小化し得たことを、私は心ひそかに誇ってもいいのではないか」が胸に迫る。慎ましく無理なく生きながら静謐な観察眼で貧困問題を語っていて、声高なメディアの論調とは一線を画している。
2013/05/06
Ikuto Nagura
西成・山谷で15年以上労務者生活を送る著者の生活記。「どんなことがあっても、このような場所に辿り着いた私の宿命に対し、絶対に悔恨なんかは抱いてやらないつもりだ」人生に躓いて仕方なく堕ちたのではなく、自分の性分に合った場所を見つけられたと山谷に対して感謝する視点で語るのが印象的。でも、社会の競争を放棄して山谷に来たにもかかわらず、著者のように達観できず、そこでもエゴの競争を続ける住人たち。勝ち組と負け組の強迫観念。そんな生き方からの解放が、都心のすぐそばで待っている。いや、自分に踏み出す勇気はないが…。
2014/06/13
リードシクティス
実際に何年も山谷で労務者として働いてきた人が書いた本。実に淡々としていて、それでいて教養と観察眼を感じさせる文章。山谷に生きる人たちの描写も興味深いが、それよりも惹かれたのは、この著者の人生に対する考え方。特に、この世に絶対の勝ちや負けがあるわけではなくて、種類の異なるマイナス要素の中から、個人がそれぞれ自分の我慢できるものを選択していくものだというところは共感を覚えた。幸福に対して高望みをし、かえって不満や苦しみを抱えている人が多いと思われる昨今、これを読むと少し気が楽になれるかも。
2009/03/02
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