月魚 (角川文庫)
月魚 (角川文庫) / 感想・レビュー
優愛
「お前は本を愛しすぎる」「欲しい人の間を渡り歩ける本を生きている本と呼ぶんだ」なんて素敵な古本屋。こんな人達に買い取ってもらえたら大切な本を手放すことにもきちんと意味を与えてもらえそう。「水底にさ、建物が沈んでたら面白いのにね」過去という影に怯えながら、月の明かりを頼りに深い底を泳ぐ魚をそっと重ねて。依存を愛という言葉に置き換えるまでは探らないのが良い。まるで水のように濁りのない心で全てを瞳に映す彼らだから言えた言葉は「名づけられない大切なものがそこには確かにあった」ずっとこのままで本に触れていてほしい。
2014/11/26
ヴェネツィア
瀬名垣の陽に対して、真志喜の陰。そして、動と静。さらには、漂泊者と定住者といったように、この二人はことごとく対象的であり、それが小説の構造を決定づけてもいる。ただし、陰である真志喜が定住者として定点(恒星のごとく)にいる周囲を、動の瀬名垣が(惑星のように)周回するのである。また、真志喜と父親の間の葛藤は、親子であることや世代間のものではなく、非凡者と凡庸な者との間に生じた齟齬である。ここでも、真志喜は動くことはない。古書の世界を舞台にした、静かなる情念の世界が展開する。月魚が跳ねるシーンはまさに幽玄の境。
2024/10/11
さてさて
古本屋『無窮堂』の若き店主・本田真志喜とその友人・瀬名垣太一が紡ぐ男性主人公二人が活躍するこの物語は、淡くあやしく揺らめく”BL”の描写で始まります。そんな”BL”のなんとも妖艶な世界と対比するように、『月に照らされ、池と、枝を伸ばした木々の生い茂る築山が、影の濃淡で幽玄の世界を現出させる』といった透明で冷徹な美しい風景の描写が物語を絶妙に演出していきます。そんな物語で光が当たるのが古書の世界。心から本を愛し、古書に魅せられていく主人公。そんな物語が作り上げる独特な雰囲気感にすっかり魅せられた作品でした。
2021/06/08
takaC
未知の世界に導かれたよ。どっぷり浸かれた。
2013/02/15
ミカママ
激しい物語ではないのに、いやだからこそ心を静かに揺さぶられる。静謐でかつ官能的。お仕事小説であり、瀬名垣と真志喜のBL小説であり、父と息子の葛藤を描いた作品でもある。もちろん私は、ふたりの心のやり取りにフォーカスして読みましたが。気持ちは通じ合っているのに、一線は超えていない、という。いいわぁ。ある意味、しをんさんの執筆の原点なんでしょうね。
2017/07/13
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