オリンピックの身代金(上) (角川文庫 お 56-3)
オリンピックの身代金(上) (角川文庫 お 56-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
悲しくも切ない物語。東京オリンピックの年、1964年を舞台に選んだということは、奥田英郎がこの年を日本のその後を決する大きなターニングポイントだと見ているからだろう。戦後は概ね清算され(沖縄の本土復帰は1972年だが)、日本がアメリカ型の多国籍資本主義社会への道を踏み出したのは確かにこの時期であったのかもしれない。小説の構造は一部特権階級と企業が上層部を成し、オリンピックを歓迎するおめでたい大衆がこれを無意識に支え、その下部には顧みられることのない底辺のプロレタリアートと、秋田に代表される依然として⇒
2023/01/04
しんたろー
昭和39年、オリンピック間近の東京を舞台に、爆破事件の犯人・島崎と捜査側刑事・落合の二本柱を中心に進んで行く物語。時折、他の目線が入って戸惑うが、本筋へ繋げて複合的に見せているのは巧い。更に特徴的なのは島崎と落合の時系に1ヶ月程のズレがあって、心情と現象を交互に理解しながら読み進められる事…これは落合が変化してゆく過程でもあり、犯行に至る動機が段々と判るのが面白い。私が物心つく前なのに何故か既視感がある「古き良き東京」が懐かしいが、今や社会問題である「格差」が既に始まっていたのを悲しみつつ、下巻へ進む。
2019/11/21
Atsushi
オリンピック開催を目前に控えた昭和39年の東京が舞台。大学院生島崎国男は出稼ぎ労働者の兄の死をきっかけに最下層の労働現場の実態を知る。深刻な地域格差や貧富の差への疑問と憤りは、やがて島崎を国家に抗うテロリストへと変貌させる。高度経済成長の陰で苦役を強いられた人々には胸が痛んだ。下巻の展開は如何に。
2018/08/01
スエ
プルル…「はい、我修院です」←仮名(若人でも無い)「スエは預かった。返して欲しければ1万円用意しろ」「どうぞどうぞ❢煮るなり焼くなり好きにしておくんなましッ♪」ガチャッ。以上、スエ誘拐事件でした。…ヒドくない?聖徳太子一枚よ?!小野妹子(一応男性)もビックリだわッ!遣隋使に、オラは成るッ。…本編は再読ですが、スエのスカスカ(ジャン)脳みその記憶の彼方、グランド・キャニオン辺りまで行っちゃってます。仁井薫警部補、ニールで思い出した❢ イライザのお兄さんよねッ!?あ〜、キャンディ・キャンディも再読したい〜!!
2022/12/01
イアン
吉川英治文学賞を受賞した奥田英朗の長編。昭和39年夏、国の威信を掛けて東京五輪の警備に当たる警察に一通の脅迫状が届く。一方、秋田出身の東大院生・島崎は、兄の死をきっかけに劣悪な建設現場で働く中で、富を独占する東京と一部の支配層に対してある感情を募らせていく…。事件を追う刑事・落合と島崎、2つのパートの時系列をずらすことにより、苛烈な運命に傾倒していく島崎の心の変貌を際立たせている。東京五輪を目前に控えた同じ状況ということで読み始めたけど、五輪に対する世論が随分違うのは皮肉でしかない。評価と感想は下巻にて。
2021/07/04
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