文学とは何か (角川ソフィア文庫)
文学とは何か (角川ソフィア文庫) / 感想・レビュー
佐島楓
ペダンティックで、西洋の文学に通じていないとおよそ理解できない部分が多い。近代以前・以降という分類をしていること、日本のこれまでの文学が未成熟だと思っていらっしゃることはわかった。
2015/06/14
ロビン
評論家にして医学博士であった加藤周一の文学論。文学とは何かを論じつつ文学史的な面もあり、漱石や鴎外、バルザックとスタンダール等古今東西の文学を自在に引用する博学ぶりと理解の深さに圧倒される。敗戦後の日本また日本文化への真剣な問題意識と批判精神に富み、人間主義的な体温もあって、読んでいてホッとすると同時に痛快。解説で池澤夏樹も書いているが、文学を論ずるのに客観的方法から書き出すあたりに理系の頭脳を感じる。分析や展開も緻密で論理的である。詩の定義はやや物足りないが、藤原定家論は示唆に富んで素晴らしかった。
2024/06/03
とんこつ
文学とは何かを考えるにあたって加藤周一は、美しさとは何か、自由とは何か、文体について(詩と散文の違い)、文学史を規定するものについて考察を進めていく(この問題意識が後期の大作『日本文学史序説』に引き継がれていったのだろう)。古代ギリシアでは神と人間の距離感で文学が描かれ、それがルソーの時代になって個人が誕生――即ち「貴方」と「私」の距離感での文学―ーし、現代にいたっては個人の「絶対的孤独」に文学の可能性があるのではないかと指摘する。1950年発刊、当時31歳の著者のあまりにも鋭く的確な予言に言葉を失う。
2016/09/22
K.iz
自分の知識が足らなすぎて理解できないという問題はおいておいて、文章は若書きという印象がある(先入観のせい?)。そこから『日本文学史序説』に至るには何らかの飛躍が必要だと思うのだが、何だろう?海外での教師の経験だろうか?ちなみに、本書であった極端な事象を両端において(たとえば純粋詩と散文)、その間の程度の問題で議論する思考は、(グラフで考えるような)科学の訓練を受けた人の思考法だと思う。
2015/07/15
ぽっか
日本の私小説は内面の告白ではなく愚痴だといいきってしまう著者。なぜなら西欧文学の文体だけ真似て、その心を取り入れていないから。そもそも文学とは、具体的な経験を全体の意味づけの中に位置付けることである。そしてその意味づけのしかたは文体として現れ、社会や文化固有のものとなりうる。ルネサンスをへて、西欧は個人の心理分析にふさわしい散文という文体を手に入れたが、これはフランスの市民革命やドイツ観念論の発展などを基盤とする。それがあってはじめて、ありふれた田舎女の心の中に、人間に関する一切があると思えるようになる。
2019/08/25
感想・レビューをもっと見る