黒蜥蜴 (学研M文庫 み 9-1)
黒蜥蜴 (学研M文庫 み 9-1) / 感想・レビュー
夜間飛行
緑川夫人の黒蜥蜴が早苗に「物と物とがすなおにキスするような世界」を語る。それはお金の介在しない世界、人間は心を持たずオブジェになる世界、盗賊と芸術家だけがなしえる魔法の世界だ。でも黒蜥蜴に盗めないものが一つあった。あの人…明智の心である。盗むことしか知らない悲しい人は、一番大切なものを盗まれたいと密かに願っていたのではないか。原作にもあった黒蜥蜴と明智の恋を思いきり前面に出し、戦う二人の宿命を、西洋の小説にあるようなイロニカルな警句で飾っている。けれども底に流れる情緒は日本や中国の古典に通じるように思う。
2024/02/04
NAO
【2021年色に繋がる本読書会】少年時代に『黒蜥蜴』を読み衝撃を受けたという三島が、自分なりの解釈を加え、戯曲にした。三島の『黒蜥蜴』は、舞台設定や人間関係など、原作とはかなり変えられている。何より違うのが、原作ではほのめかされているだけの黒蜥蜴と明智小五郎の恋情が、三島の戯曲でははっきりと示されていることだ。黒蜥蜴の死も、明智に負けたからではなく、彼への愛情を当の本人に聞かれたからとしているのも、恋愛の心情としてリアリティがある。かなりグロい話が、三島の手を経ることで格調高くなっていることに驚かされる。
2021/02/05
ヴェネツィア
三島の本格劇(というのも変な言い方だが)、『サド侯爵夫人』などからすれば、傍流に属しそうな戯曲ということになる。前者では言葉そのものが劇空間を構築していくが、ここでの言葉はことごとく贋物(これは第3幕のキー・コードでもある)めいているし、舞台もことさらにフェイク感を漂わせている。もちろん、それは三島が意識的に行っているのであるが。こうした舞台は、まるでやがて一世を風靡するアングラ演劇のそれなのだ。唐十郎の状況劇場が'64年、寺山修司の天井桟敷が'67年だが、『黒蜥蜴』の初演は、なんと'56年である。
2013/02/25
ヨーイチ
原作を挙げているけれど、思い出の演劇作品シリーズ。幼い頃・ボチボチ乱歩を読み出していた頃、母親がテレビを指差して「ヨッちゃん、この人本当は男なんだよ」と教えてくれた。乱歩繋がりで声を掛けたのだろう。NHKの劇場中継、暗い画面に女装した丸山明宏と虐められている男の恐ろしい会話が繰り広げられていた。その周りを徘徊する二人の侏儒!演劇の原体験としては余りにも強烈、怖かった。その後芝居を志し入った劇団の主宰者は奇しくもテレビで観た芝居の演出者であった。続く
2020/06/02
高橋光司
言わずと知れた、江戸川乱歩原作に拠る三島由紀夫の戯曲。 再読も5回目位?でしょう。 文庫版には当時の乱歩と三島の対談や、文庫化にあたって書かれた三輪明宏の解説などもあり、なかなか興味深いものがあります。
2017/04/30
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