剣と花 (下) (講談社文庫)
剣と花 (下) (講談社文庫) / 感想・レビュー
しゅんしゅん
武一郎なきあとの遺産をめぐる石津家のもつれ。欲に目が眩み、醜さを露呈させる兄弟たちの姿が痛ましいが、そこでも毅然とした態度で武一郎の遺志を継ごうとする文三郎の姿が実に頼もしい。過去の女性関係も清算しようとして、剣を研ぎ澄ませてきた人間の、武士道とも呼べる生き方が冴え渡り始めるが、美しい花はいつか散ることを宿命とするように、滅びを前提として咲く花は地獄のような背徳の関係性の中でしか咲くことが出来なかった。純文学と大衆文学の両刀遣いの稀有なバランス感覚を兼ね備えた作者が、強さが孕む弱さと美しさを描いた作品。
2021/07/09
感想・レビューをもっと見る