本覚坊遺文 (講談社文庫 い 5-8)
本覚坊遺文 (講談社文庫 い 5-8) / 感想・レビュー
キジネコ
マジックリアリズム、美しい構造をもった小説を読了致しました。特に終章の亡霊となった太閤と利休の会話が私の内なる枯野に降る慈雨の如く、視野を緑なす大地に変えてしまう圧巻に感動します。何故利休は?太閤は?の問いに憑りつかれていた読痴は、大いなる開明得悟の瞬間を本書の初章で早々与えられます。生ける本覚坊が死せる茶湯者達と語る異口同音の「何故」の解の見えない冥界の小道で巨人利休は微笑みます。死は生に含まれる。美しく生きる事は、美しく死ぬことも意味する。命以上に大切な「美」を見続けた者の当然の帰結だったのです。
2017/07/19
メタボン
☆☆☆☆ 利休の死という戦国時代有数のミステリーに果敢に挑んだ名作。弟子の本覚坊の目と語りを通すことで、利休の人物像の奥行きが増している。利休のみが歩む寂しい道というたとえに緊迫感漂う死生観がすさまじく表れている。井上靖の筆致が冴えわたっている。
2021/05/12
みねたか@
晩年の利休の従者本覚坊。利休の死後,隠棲の日々を過ごす彼のもとを訪れる師ゆかりの者たち。それぞれが抱える「なぜ利休は端然と死を受け入れたのか」という問い。本覚坊との対話から答えが導かれるわけではない。対話を触媒としてそれぞれが死の意味を感じ取っていく。そして,長い年月を経て本覚坊自身もその問いに向き合う。枯れた静けさに満ち,夢,幻と現実が混然とした中に立ち現れる師利休の姿。他者の死を受け入れるとは,人が自らの生を生き,顧みることに他ならない。井上靖の晩年の凄み。
2018/07/18
まーたろ
読もうと思って伯母の家から拝借してきて以来十年ほど積読だった。ジャンルは歴史ものっぽいけど、内容は幻想文学かな。自分は師匠亡き後三十年も心で対話できるだろうか。それほど深く結び付いていられるなんて羨ましい。単純にそう思いました。
2015/10/17
蕎麦
祖母の形見の一冊。幼い頃から本棚に置かれていて、読まずに30年以上が過ぎ、初読。祖母が使っていた香の香りが染み付いていてページをめくるたび鼻を掠める。まるで祖母が目の前にいるよう。それがこの本である自分は幸せだと思う。
2021/09/14
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