ナイン (講談社文庫 い 2-11)
ナイン (講談社文庫 い 2-11) / 感想・レビュー
ばりぼー
何度目かの再読。人情味溢れる古き良き時代の東京を描いた、一話10ページ程度の自叙伝風小品集。ポルノ女優やストリッパーが登場する話もありますが、彼女たちとの触れ合いが日常となっていた猥雑な下町の空気が感じ取られ、ある種の羨ましさを覚えます。なかでも秀逸なのが、かつて新宿区の大会で準優勝した少年野球団メンバーのその後と心の絆を描く「ナイン」、お世話になった児童養護施設光ヶ丘天使園の園長先生との再会を描く「握手」。ルロイ修道士の「困難は分割せよ」という言葉が印象的です。巻末の自筆年譜も実に興味深い資料でした。
2015/10/04
chimako
人と人との小さな関わりがひょっとしたら人生を変えてしまうかもしれない。たとえば劇場の照明部屋から落とした一万円札。バスに乗り合わせた初老の男性。スポーツ少年団の仲間。まさか自分のたわいもないおしゃべりが、暗礁に乗り上げた結婚にゴーサインを出すなんて、忙しいご婦人はちっともお気づきではないでしょう。市井の人々の何気ない暮らしの中の出来事を切り取った、まるでエッセイのような読み心地。最後の『握手』では胸がジンとした。表題作の『ナイン』は地区大会で準優勝した少年たちのその後が描かれる。良い話。
2014/03/18
たか
16編からなる連作短編集。 何れの作品も著者が経験したことや見たことが題材になっており、良作揃い。 東京のいろいろな地域が舞台になっているが、かなり前の東京の原風景が描かれている。市井の人々の生活や思いも書き込まれており、興味深い。 最後の『握手』は中学校の教科書にも載ったことがあるそうで、心を震わせる人間の交流がそこに描かれている。C評価
2020/05/10
アカウント停止
昭和ノスタルジー。東京を舞台にした16の短編集。こんな短編の中に、これだけ深い人間ドラマを描き出せる作家はそうそういないと思う。市井の人々の話は、ちょっとしんみりしてユーモラスで温かい。過去の話を現在に収束させる見事な手腕。頭の中に辞書があるのではないだろうか?と思える豊富な語彙も魅力。「ナイン」と最終話の「握手」を読んだだけでも、この本を手にした甲斐があったのに、そのほかに14編もあるなんて嬉しい。「ナイン」は英夫くんが言う通り、実際に経験した人じゃないと分からないんだろうな。第3位は「春休み」
2021/05/04
Our Homeisland
このところずっと読んで無かったですが井上ひさしは好きな作家の一人です。長さ的には短編というよりもショートショートに近いような短い作品たちが収められていました。私の世代よりはやや上の東京の街や人などの描写は、少し同時性がかかっているという印象で、頭に浮かべることができて懐かしかったです。終わり近くの「会話」「会食」は特に印象に残りました。最後のルロイ修道士の話「握手」は以前に教科書で読んだことがありました。初出の年から私が中学の時ではないので、おそらく家庭教師をしている時の教え子の教科書だったと思われます。
2015/11/20
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