崩れ (講談社文庫 こ 41-1)
崩れ (講談社文庫 こ 41-1) / 感想・レビュー
やいっち
本文には筆者が72歳であり52キロであることが何度か出てくる。昭和51年からの連載(『婦人之友』にて)。当時の72歳というと、いまなら80歳は優に超えている。その年で思い立って自然の剥き出しの惨状に立ち会おうと思い立った。厳しい場所が多く、時には関係者に背負ってもらってまでも崩れの現場に近付こうとする。もう、なりふり構わず。その思いは何処から来るのか。身辺雑記の叙述を得意とする作家が何故。昭和の作家で山の厳しさ美しさを愛でた人物は散見される。が、崩落現場へ自ら出向き対面した作家は少ないのではないか。
2020/04/11
Gotoran
著者72才の時の作品。安倍川の崖の崩落跡を見た事をキッカケに、「崩れ」に取り憑かれたような著者ならではの感性で自然への脅威・畏敬の念と、それに纏わる人間関係を練達した文章で綴っていく。何でも見てやろうという好奇心旺盛さ、自然という人間の力ではどうにもならない巨大な力に対峙していく姿勢、そして感性と表現描写力…素晴らしい。興味深く読んだ。
2024/01/05
Shoji
山崩れや山ヌケ、噴火や土石流、河川氾濫といった大自然のエネルギーによる崩壊に着目して、著者が静かに自然の摂理を語ります。まるで自然の摂理に老い行く著者自身を投影してるような感じです。静かな物語ですが、秘めたる情熱を感じさせました。
2021/12/16
ホークス
繊細で文学的な感性が、自然科学的な、極めて男の子的な現象に魅せられた不思議なエッセイ。相手は日本三大崩れに数えられる巨大な山崩れ現場。当時著者は72才だが、少年の様に現象の圧倒的パワーと視覚的ショックに驚き翻弄され、追憶も含めた「崩れ」巡礼に入っていく。実は土砂崩れを体験もし、興味を持っていたと分かる。勝手な解釈かもしれないが、本書の凄さは、老年からでも、いや老年になったお陰で、新たな感性や可能性を獲得できると思える所にある。物理的な驚異を語る著者が、とにかくチャーミングに感じられた。
2016/12/23
ぼちぼちいこか
著者がある日突然自然の驚異に目覚めた。それは青葉しげる初夏に目の前に立ちはだかる山肌の崩れだった。年を重ねてからその恐ろしさに戸惑う作者。この自然現象を知ってもらいたい、それから著者の崩れの旅が始まった。日本全国にある山の崩れ。72才の年齢で危険な箇所に取材に行く姿は読んでいる側を引き付ける。そして最後には火砕流について未だ見たことがない自然現象を求め、鹿児島から北海道まで足を運ぶ。話はここで終わってしまうが、著者が危ぶんでいた自然現象の災害を私たちは見せつけられた。
2020/12/09
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