風と光と二十の私と (講談社文芸文庫 さB 1)
風と光と二十の私と (講談社文芸文庫 さB 1) / 感想・レビュー
上品過ぎて僧侶のような寺
先に読んだ岩波文庫版『風と光と二十の私と・いずこへ』とダブっていない作品のみ読む。岩波版も良いが講談社文芸文庫版も良い。安吾の前半生記のような岩波版と違い、この版は安吾が覚醒剤&睡眠薬で目茶苦茶になった時の思い出まで入れた全人生版。周囲の人達の方が大変だっただろうが、安吾が気の毒になる。そしてこの文芸文庫版が優れているのは「著者にかわって読者へ」という三千代夫人の一文が。三千代さんが入院先の病床で書いた一文。小さな子供を優しい眼差しで見る三千代さん。安吾&三千代の優しさが次の世代に注いだ事を嬉しく思う。
2019/10/24
zirou1984
本作において頻出する、安吾にとっての「ふるさと」とは何なのだろうか。それは故郷・新潟の光景かもしれないし、不登校を繰り返した十代の記憶かもしれない。もしくは二十歳前後に代用教員をしていた頃に触れた子供たちちとの繋がりかもしれない。いずれにせよ、戦後無頼派を気取りながらも「私の肉欲も、あの海の暗いうねりにまかれたい」などと書いてしまう抒情性とただ個人であり続けようとする反骨心こそ安吾を安吾たらしめるのであり、そうした言葉に無性に愛着を感じてしまう。そう、自分のふるさとは、安吾の言葉の中にあったのだ。
2016/10/07
Salsaru
読み終わるまで結構な時間がかかった。この人は、狂気じみて、欲に素直で、複雑で、逃避し、ろくでもない。正直すぎる胸中の告白はかえって清々しい。正しい人を前にした皮肉な逃亡は光には影がなければと妙に納得。
2014/02/01
東京湾
汚辱と頽廃と淪落の究竟、どこまでも堕ちたその果てに掴む魂の光芒。無頼派の雄・坂口安吾が生きた放埓の日々。実に痛快で痛切な自伝集だった。何ものにも満たされないことを知っていて、それでも落伍者という烙印を自らに焼き付け、ひたすらに生を希求する。それは決して無為な独り相撲などではなく、むしろ誰よりも誠実に自らの魂と向き合った証だった。母との確執に始まり、家や学校からは突き放され、肉欲という悪魔に苛まれ、麻薬中毒という地獄を越え、その心にある苦しみを信じて、生涯続いたあてどなき彷徨。その偉大なる孤独に感嘆した。
2020/09/19
みや
戦前・戦後に発表された随筆集。生活道具の所有を拒絶し、空襲下の東京にあって戦火と遊び、密かに大谷石と格闘して自主鍛錬を積むなど、拗らせエピソード満載。他方で、代用教員時代の子どもたちへの理解ある指導ぶりは意外。そんな中、矢田津世子との話は、どうも奥歯に物が挟まったような物言いで真意を掴みにくい。異性との関係性に対する安吾の教条主義的な「囚われ」を感じる。各年齢に書かれた散文を通じ、不器用な人特有の悲哀を堪能できる一冊。
2023/01/21
感想・レビューをもっと見る