鞄の中身 (講談社文芸文庫 よA 3)
鞄の中身 (講談社文芸文庫 よA 3) / 感想・レビュー
佐島楓
短篇19編収録。どこか読み手を突き放したような、無駄のない文体と病的なものをはらんだモチーフ。読者の想像力を必要とする描写。ニヒリズムとダンディズムの抱合。エッセイとはまったく違う、とらまえにくい作家だという印象を強く感じさせる。
2017/04/04
ちぇけら
他人の鞄の中を盗み見るのは、どんなに親しくても、赦されないことをしている悦びがある。あまりに官能的な。きみは絶対に鞄の中をひとに見せない。肌身離さない。なかにはなにが入っているの?聞くときみは静かに笑うだけでなにも言わないから、好きだ。きみの鞄の中を想像するだけで、からだの芯がじんじん熱くなって、たまらず西の窓をあける。あなたの死体よ。きみが言ったらぼくはどうするだろう。きっとそのままベッドに倒れこみ、きみを強く強く求めるだろう。しかしもう、そんなことはできまい……。ぼくの足元の鞄は、膨らんでいて、重い。
2019/07/12
501
昭和36年から15年間に発表された19の短編集。どれも人の奥底から染み出してくる淀んだ空気のようなじめりとした感触をもつ。はてなマークがつくのもあり宝探しという感じ。だがその宝にはまるとなんともいえないぞくりとした快感がある。なかでも印象的なのが表題作の‘鞄の中身’で最後の一文にやられた。
2017/07/04
i-miya
2009.09.04(年譜)T13生まれ、吉行エイスケの長男 岡山市生まれ 母:あぐり、美容師 姉:吉行和子 女優 2009.09.05 物と人間の照応 (1)家庭菜園の茄子の実 (2)玄関のそばに植えた苗木 (3)川の浅瀬の小石 (4)普通のボストンバッグ状の鞄 (5)病院の便所の木製のサンダル (解説)川村二郎 人間は物より優位に立っていない 吉行淳之介は眼の人であると同時に幻視の人である そこに吉行の面目がある P007 =紺色の実= 庭の隅まで歩いていって女は蹲った
2009/09/06
東京擬態~tokyoGitai
やっと読み終えたと云う感じ。内容は充分に面白い。ただ、文体が単調なので始めのめり込めなかった。だが、その単調さが良いのかもしれない。簡潔で単調…それがこの作品群の〈人間の暗部〉を映し出しているのかも。一作品が終わる毎に胸の内に陰が忍び静かに置かれる。生きた分だけの灰汁が滲み出る。罪意識、人の咎が普遍であるからこそ面白く感じる。私が特に好きなのは『流行』--どの作品もそうだが、本質を掴めそうで掴めない、そのぽつねんとした感じが真っ暗な奥底へ続いているようで更に覗きたい気分となる。怖いもの見たさ。人間の性。
2012/11/16
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