包む (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
包む (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) / 感想・レビュー
pirokichi
著者が50歳の頃に書いたエッセイ29篇。「包む」には「心の中にしまいこむ。かくす。おさめる」という意味があるのだと、あらためて気づかされ、いい言葉だなあと思った。「包む」という題の随筆以外でも「包む」という語を見つけるたびハッとさせられた。著者は人の顔に敏感で、人の顔のみならず犬の顔さえ覚え、しかし鶏の顔は見分けがつかなかったというのはいかにも著者らしくて可笑しかった。「蜜柑の花まで」「鱸」「結婚雑談」など、父・露伴とのエピソードは特に印象に残った。解説は荒川洋治さん。
2023/11/24
双海(ふたみ)
季節と詩情が常に添う父露伴の酒、その忘られぬ興趣をなつかしむ「蜜柑の花まで」。命のもろさ、哀しさをさらりと綴る「鱸」、「紹介状」「包む」「結婚雑談」「歩く」「ち」「花」等、著者の細やかさと勁さが交錯する二十九篇。「何をお包みいたしましょう」。子供心にも浸みいったゆかしい言葉を思い出しつつ、包みきれない“わが心”を清々しく一冊に包む、珠玉のエッセイ集『包む』。(カバーより)
2014/09/27
第9846号
世間というものを熟知し、それに距離を取りつつ暮らしを立てる。人と出来事を見つめ表現する、達人の文章。
2010/09/19
方々亭
昭和三十年代ってそんなに昔な感じはしないのだけれど、それでも60年は経っているのか。戦争や大きな地震はなかったけれど、東京の土地に建っている家々も変わるし、それ以上に生活様式も変わるし、話されている言葉も変わった。その失われたものについて考えさせられる随筆集だった。
2021/09/06
ウチ●
「私が知っている父の釣は、もうほとんど鱸(すずき)つりにかたよっていた・・・」父・露伴の思い出を書いた文のエッセイ数多あれど、本作中の「鱸」は出色の作品。露伴と、二十歳で亡くなった息子(文の弟)の幼き日の回想。楽しみの中にある儚さ、「少年」と言うもの自体の美しさのかなしさ、詩の哀しさ・・・ご興味のある方には、つり人社「幸田露伴江戸前釣りの世界」木島 佐一をお勧めしておきます。
2023/09/08
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