テレーズ・デスケルウ (講談社文芸文庫)
テレーズ・デスケルウ (講談社文芸文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
遠藤周作が心酔し、三島由紀夫が触発されて『愛の渇き』を書いたのがこの小説。さすがに、なかなかに難解である。テレーズは夫ベルナールの毒殺を図るが、では殺したいほどに夫を憎んでいたかというと全くそうではない。それどころか、夫に対してはほとんど無関心であるというのに近い。夫もまたテレーズを愛してはいない。愛は不毛であるし、彼女の生そのものの意味もまた彼女自身にも、どう捉えていいのかがわからない。畢竟、殺人未遂は『異邦人』の殺人を思わせるのだが、彼女にとっては自分自身が内なる"異邦人"だったのではあるまいか。
2021/12/28
藤月はな(灯れ松明の火)
子供の頃、人生は希望に溢れていて何者にもなれると信じていた。しかし、自分の性格は変わらないどころか、それが理想への足を引っ張ると思い込み、自分は自分以外にしかなれないと悟った時、人生は不確定な不安に包まれる。冷笑的なテレーズは、自分の意志ではない結婚によってそれを思い知った人間だ。だが、テレーズはその空虚さを埋めよう努力する事も、偽りの感情を作り、信じ込もうとはしない。だからこそ、どこまでも自分に向き合い、袋小路に陥ってしまう。そしてある意味、ベルナールもテレーズも自分以外の人の事を愛していない。
2019/01/02
nobi
感性も知性も随分と重層的。そしてまた語る言葉はフランス語の響きそのもののように柔らかい。モーリアックはひたすら内なる世界へ「名状しがたい心の領域」へと降りて行く。恐らくどの作家も踏み入ったことのない領域に。宗教故に見えづらかったかも知れない領域に。その「領域」に少しでも夫が近づいてくれたなら事態は変わっていたはず。現代的な懊悩の表出から戦後と思い込んでいたけれど1927年!の作品。最初違和感を覚えた状況、が次第に切なさが増し、ついにはテレーズの更には誰もの、微かに揺らめいているいのちの燭光に辿りつく感じ。
2020/08/14
新地学@児童書病発動中
因習に縛られた田舎の生活の中で内面的な自由を求めようとする女性(テレーズ)の物語。テレーズの内面の描写と一続きになった物語の舞台になるアルジュルーズの自然の美しい描き方が強い印象を残す。どんな人でもテレーズのように仕事、家庭、結婚と言った普通の生活を超えたところにあるものに憧れを持つことがあるだろう。テレーズは私たちの分身とも言える。夫を肉の塊とする性愛に対する厳しい視点がいかにもカトリックの作家という気がした。(続く)
2013/07/09
みっぴー
『テレーズ・デスケルウ』-呪文じゃないです。人名です。結婚により、人生そのものを牢獄にしてしまった女、テレーズの話です。〝生にくたびれた女〟テレーズは、訳者遠藤周作の永遠のヒロインであるばかりでなく、その不安定な精神で多数の文学者を魅了する文壇界の魔性の女です。私の感想としては、物事には向き不向きがあるように、結婚も同様なのだということ。あっちこっち飛び回るテレーズの精神を家庭に閉じ込めるのは、はじめから不可能だったのでしょう。現代に生まれてたら、絶対バックパッカーになってたな…と感じました。
2016/07/26
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