わが母の記: 花の下・月の光・雪の面 (講談社文芸文庫 いH 1)
わが母の記: 花の下・月の光・雪の面 (講談社文芸文庫 いH 1) / 感想・レビュー
Willie the Wildcat
極限状態に見る本質。人生の終末を顧みる。歴史への想い。心情を反映する言動の1つ1つの意味。我(が)が出る必要性と意義。医学ではなく、心理学の観点での考察。故に、著者の”帰国”という表現が印象的。一方、『愛別離苦』。「香典帳」が記憶に強く残る。著者の母が消す氏名・・・。思い出であり、繋がりでもある。哀しみとも捉えることができるが、心の”整頓”とも感じる。
2014/02/07
tono
老いたる母の表面的な行動、言動から、精神と肉体の変化に焦点をあて、深層に見え隠れする人間の行く先に思いを馳せる。 肉親の変化であるだけに、哀しく切なく、痛ましい。選び抜かれた言葉達が無駄なく美しいことも、本作の大きな魅力である。。視覚的に認識される一般的な現象を、内的にそして人間学として繙く文豪のアプローチは流石だ。
2016/08/30
belier
認知症になった母についての短編私小説3部作。父親が死んだとき母は80歳。すでに記憶力に障害が出ていて、幼少の頃に好きだった青年の話を孫たちに繰り返し聞かせたりする。85歳、身体の方は元気だが記憶の後退はさらに進む。若い母親の頃の精神に戻り、嬰児の「私」を探す場面が切ない。89歳、身体も弱り徘徊もしなくなっていた。「私」のことも誰かわからない。ついに死を迎え骨片となってしまう。大変な状況だったが、家族が多く「私」も裕福で、母の面倒はよく見れていた。よい話だったが、一般の家庭では難しいだろうと思ってしまう。
2022/11/20
FUJI燦々
作者の母が認知症を患い、それに家族で関わっていくなかで、母が死に至るまでのお話。エッセイと小説の中間のような作品だと感じた。読む人の状況によっていろんな読み方が出来る作品かもしれない。文体はさすが井上靖という感じの簡潔でスッキリとしたものでありながら、奥深い部分も内包した素晴らしいものであった。
2019/04/11
AR読書記録
息子→母という立場で書かれたものではあるが、祖母の許で育てられたとあって、マザコン・母性礼讚といった趣はなく、母の老いを通して自分の、そして普遍的な老いを見つめる内容になっているかと思う。しかし、文学のなかには“老親モノ”というジャンルが置かれてしかるべきと思うけど、そういう研究とかあったりするんだろか。とりあえず手元にある色川武大『百』など読み返して、比べてみたくなったりしたけれども。
2016/02/28
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