女たちへのエレジー (講談社文芸文庫 かD 5)
女たちへのエレジー (講談社文芸文庫 かD 5) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
金子光晴はどうしようもない女好きで、その好色ぶりには笑ってしまうこともあるのだが、ただそれだけでは終わらないところがこの詩人の詩人たる所以だと思う。特に若き日の東南アジア放浪から生まれた「女たちへのエレジー」は、どん底の生活を強いられるアジアの女性たちが背負っている哀しみへの深い慈しみが感じられて、読むたびに胸が震える。その哀しみは政治などでは絶対に解決できないもので、存在に黒い穴が開いていると言ったら良いのだろうか。詩人自身も自分の中にその穴があることを自覚し、女たちと同じ次元に立とうとしている。
2014/01/28
アメヲトコ
女性への愛とセツクスをテーマにした詩集。『愛情69』に至つては筆者73歳の時の作品で、お盛ん過ぎませんかと言ひたくもなるけれど、時にどきりとするやうな表現が見られるのは流石。「たがひに、摧ける程抱合つても、/あなたから血液が、のり越えて、/僕のからだを流れることはない。」
2016/02/25
白いハエ
艶めいた日本語に載せて、濃厚な愛情が垂れ流されていく…所感としては、「女たちへのエレジー」の率直なイメージが、「愛情69」で艶やかに洗練されているように読んだ。この率直さに耐える文体は流石。「待つといふことはつらいことだ。/まるで、生きたまま魚網にのせて/せなかと、腹をあぶられることだ。/皮が焦げて、脂がながれ出すまで/まつ赤な炭火にかけられることだ。(愛情61)」
2018/11/02
ダイキ
「姫胡蝶花のやうなお嬢さんが/ニッケイをしかみながら、言つた。/__なにか、御用?/おつしやつてもかまはないのよ。/僕は、だまつてゐた。/愛情へは、手をふれないで、/大切な手荷物のやうに/目の前にそつと置いたまま、/たいていの人生を、僕は、/そんなふうにしてやり過した。/みすみす逃げてゆく機会を、/引止めないことでじぶんを豊かにした。/お嬢さんがたがみんな去つて、/嫁いだり、老いたりしたあとでも/心にのこるおもかげだけが、/よごれず、うすれず、匂失せないために。」〈愛情59〉
2016/12/15
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