極楽,大祭,皇帝: 笙野頼子初期作品集 (講談社文芸文庫 しL 1)
極楽,大祭,皇帝: 笙野頼子初期作品集 (講談社文芸文庫 しL 1) / 感想・レビュー
tomo*tin
徹底的だな、というのが第一印象で、鬱屈した心の闇が物凄い勢いで眼前に迫ったかと思うと、それらは更に増幅して体内を侵食し、余すところ無く喰い尽し、残りカスを放り投げたかと思えば、沈澱してゆく孤独を貪る。そこにある言葉が本来持つ意味以上の力を持って喀血する。救済は求めないという憎悪。偽善も欺瞞も必要無いという呪詛。徹底的なのだ、何もかも。誰かを心から憎んでいる人は読まないほうがいい。多分この物語に入り込んだまま、戻れなくなると思う。
2009/04/21
梟をめぐる読書
外界への強烈な違和の意識から出発した作家による、<初期作品>として括るにはあまりにも完成度の高い作品集。一枚の地獄絵に現世への憎悪を刻み尽くそうと執着する男の転落を描く「極楽」。生まれ変わりへの期待が両親や環境によって残酷に裏切られる子供の意識を描いた「大祭」。内面に観念としての<搭>を抱え、密室の絶対君主として君臨する引きこもり青年の精神に密着した「皇帝」。いずれの作品も人物の内面に無限に寄り添おうとするナイーブな著者の感性のうちに文学的マニフェストの気負いも感じさせ、短美小説としても絶品である。
2016/04/18
ふくしんづけ
レビューのしづらい作品。『極楽』は楽しんだ。『大祭』も割と読みやすく、一応の筋のある短編。『皇帝』は外界との隔絶により、作中の経過しているはずの時間も〝彼〟の部屋という閉鎖空間の中に溜まり淀んでしまい、流れがない。語り手の意識のみで進められていく。著者の頭に入るようにして読む。本当は〝私〟であるけども自意識への抵抗としての〝彼〟なので作者の頭に近くはあるのだと思う。少なくとも一度読んでそう理解した。社会から押しつけられる役割、剥離した自分という概念からの脱却、の意志。
2022/11/20
ミツ
文句なしに傑作。恐ろしいものを読んでしまった……。 凄まじいまでの憎悪と鬱屈を篭めた純文学三編を収録。 地獄絵の中に完全な憎悪を描こうとする『極楽』現実と嘘を巡る思索は著者自身の作家としての決意表明とも読める。 自意識以前の子供の世界と外界の暴力を描いた『大祭』 そしてエゴの塔に引きこもる私=皇帝と私を規定し抑圧する社会との観念的自己内対話を描く長編『皇帝』 そこではルサンチマンにより形成された強烈な自己が投射する汚濁と暴力の幻想に爛れた地獄を見出すことが出来るだろう。
2010/01/05
押さない
「皇帝」は特に物語や人物、情景描写よりも、観念的・抽象的・演説が強く出ていて、そういった作者の思想が物語に落とし込むのではなく説明的に出てくるタイプのものに辟易してしまうので、好みに合わなかった。「極楽」「大祭」は内に内に篭もる持ち味が寒気がする程よく混ざりあっていて素敵だった。
2017/06/16
感想・レビューをもっと見る