五里霧 (講談社文芸文庫 おU 1)
五里霧 (講談社文芸文庫 おU 1) / 感想・レビュー
白義
時代の流れの中で流されず一人立つために言葉を求め言葉で格闘する。登場人物に限らず、地の文すら異常に生真面目で硬質な文体によってその並々ならぬ緊張を伝えてくる。しかし、いちいち()の中に人の出身や補足を入れる細かすぎる几帳面さ、どんな話題でも全く平等であるかのようにペースを変えぬ冷静さが、なんとも言えないユーモアを漂わせていていい。実在の新聞記事や書名が頻出することからエッセイ風私小説にも見えるが、「老母草」や「五里霧」などいかにも創作らしいものも多く、強烈なイメージを残すものもある
2015/04/03
モリータ
◆92年3月-94年6月『群像』発表の12短篇。単行本94年10月講談社刊、文庫(本書)2005年1月刊。2022年夏のうめだ阪神の古本市で拾う。◆作中時間は1931-1992年の1月から12月。ただし発表年月順ではなく、標示される年月が作中現在から回想された年月である作もある(「同窓会」)。視点人物は各作で違うが、語り手に近しい人物が設定されている。厳密な文体ゆえ読みやすく、ドラマチックな作(「老母草」、ユーモアある作(「底付き」、スガ秀美が賞讃していた)。これと言って感動した作はないが、ほっとする。
2022/08/21
AR読書記録
いそいそと、感想を書こうと検索してみたら、「読了」マーク。7年前に読んでいたことを全く覚えていなかった。記憶喪失... かつ、感想も変わるもんだなーと思う。まあそこは、読書は自己を投影するものだからな。今は生真面目さがちょっと煩わしいというか。しかし、「精神の、魂の、連絡船」はぐっときた。
2019/04/24
Cell 44
『神聖喜劇』しか読んでいないのもどうかと思い、手にした。例の厳格な文体で差別問題などの当時の世相に切り込んでいく力強い文学、なのだが、そこに独特のユーモアが流れているように感じた(『牛返せ』で片瀬の感じたそれと同種のものだろうか?)。そして、解説を読み、この唯一無二の文体に他者の言葉が溢れていることについて少しく考え込むハメにもなった。桜井の思い描いた連絡船の成り行き(『連絡船』)、巻末に引かれた島木赤彦の「この道や遠く寂しく照れれどもい行き至れる人かつてなし」の「この道」。今は亡き著者の歩みを眺める。
2014/03/23
isbm
★★★
2021/03/30
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