夏の流れ (講談社文芸文庫 まF 1)
夏の流れ (講談社文芸文庫 まF 1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作は、第56回(1966年下半期)芥川賞受賞作。死刑囚監房の刑吏を語り手とした珍しい小説。死刑執行のくだりをはじめ、全体として(おそらくは綿密な取材によるもの、もしくは作家の想像力によるものだろうが)きわめてリアルな感触に満ちている。生の側にいる者が死を執行する、そこには超えがたい一線があるだろう。生と死の境界は、いわば絶対である。そして、法の名の元に死刑を宣告するのは国家だ。だが、それを行うのは市民の誰かなのだ。我々は日頃、それが見えないふりをしているのだが、丸山は直視し、書くことで問いかける。
2015/11/11
遥かなる想い
第56回(1966年)芥川賞。 刑務所につとめる私と堀部、中川と 囚人たちの 奇妙な距離感がいい。 夏の日の釣りと 刑の執行が、光と影のように 静かに描かれている。 日常に潜む不気味なものが、読者に 伝わってくる、そんな作品だった。
2017/08/19
kaizen@名古屋de朝活読書会
【芥川賞】前半は刑務所に勤務する主人公の日常生活。後半は死刑執行にまつわる、新人の迷い、囚人、刑務官の先輩の対応など、劇的な部分を、前半と同じような平板に記述している。良いと思う人と、あざといと思う人がいるかもしれない。自分では、読み進めやすかった。いろいろな仕事、いろいろな状況を知ることが出来る。著者の経験ではないことを表現する技法としては妥当なのだろう。銓衡委員である三島由紀夫が「男性的ないい文章であり、いい作品である。」という評論が分かり易い。平板な評価に意味がある作品なのかもしれない。
2014/02/23
absinthe
死刑囚が収容される拘置所の話。主人公は刑務官。刑を待つ死刑囚に名前はなく単に囚人。主人公と囚人の心の距離でもある。囚人の背景を語らないことで、逆にその囚人のまさにその今についての描写が真に迫ってくる。人間は薄っ皮の理性をまとった野獣なのだと思う。往生際がとても悪く描かれているが、その生への執着もまた人間の性だ。普通の家庭と囚人の境遇、仕事を淡々とこなして見える主人公と辞めたいと言い出す中川。対比によって印象が深まっている。
2024/05/30
みっぴー
《2018夏物フェア》第六弾。表題作は芥川賞受賞作。作者は当時二十三歳で、綿矢りさに抜かれるまでは、最年少受賞者でした。詩的な表現は一切なく、簡潔というか、カッターナイフで勢いよくスパスパ切ったような鋭い文章。会話も短く、テンポがよい。しかし軽いどころか、量感を感じさせる。二十三歳が、死刑囚と看守、ひいては命をテーマにした作品を書き上げることに驚愕。『雁風呂』『その日は船で』『血と水の匂い』も印象に残りました。どの作品も、女性がいつも悲しんでいるような気がします。解説は茂木健一郎。
2018/07/23
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