ゴットハルト鉄道 (講談社文芸文庫 たAC 1)
ゴットハルト鉄道 (講談社文芸文庫 たAC 1) / 感想・レビュー
KAZOO
かなり初期の頃の作品集(3つの短編)で私は比較的好きな短編がありました。表題作は私も何度か通ったこともあり懐かしい場面などがありました。「隅田川の皴男」も好みで印象に残ります。多和田さんは私のフィーリングに会う作家だと感じています。
2018/02/25
ネムル
字を読むという行為に対して、これほど愉悦を覚える作家はそうはいない。ゴットは神、ハルトは硬い、国境の鉄道に入り、アルファベットの「O」の口に潜り込み、間という場所で言葉がぐずぐずと変容、自壊し続ける。石や肉体に例えられるように、無機質とも有機物ともいえない不思議な言語感覚だ。「硬い石がゲッと擦れ合い、砂利がシッと滑り落ちて、谷底に湿ってネンの粘土に変化した」町のゲッシェネンというおバカで無邪気な表現すら、多和田作品では最高の魅力の一つ。
2009/07/28
ぱなま(さなぎ)
トンネルに入って行くように、薄暗い一階に降りていくように、橋を渡っていくように、自分の身体に手を差し入れてみるように、自身の内部にあるものを探ってみる好奇心。『無精卵』はナチの迫害やアンネ・フランクの日記が後世に残された経緯を彷彿とさせるが、男女が共生する中で男が息を詰まらせ女が抑圧される物語のようにも思う。居心地が良いとは言えないが読まずにはいられない快感のようなものがある。
2018/08/26
翠埜もぐら
ゴットハルトと言う珍しく実在する地名を旅する表題作。主人公の女性に実在感があってこれまた珍しいものだと思っていましたが、やっぱり紀行文などではなく、潜り込んで行くのはトンネルなのか、潜り込んで裏返っていくよう感覚でした。多和田さん描く主人公の女性たちは一応にアイデンティティが薄く、薄い膜につつまれてふよふよしている水のような印象があるのですが、他者とかかわることに対しては非常に硬質になったり、ジワリと何かがにじみ出たり、薄いアイデンティティで相対する男を圧倒したりするのです。→
2022/05/31
しゅん
言葉と風景と他人と欲望がすべて分離している感じが多和田葉子なのではないかと思った。「無精卵」の少女による拘束の場面が分離したものがくっついてしまったがために不条理が押し出される。好きかどうかはよくわかない。切実なものは感じる。
2020/07/06
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