さざなみの日記 (講談社文芸文庫 こF 8)
さざなみの日記 (講談社文芸文庫 こF 8) / 感想・レビュー
アン
細々と手習いの師匠を営む母の多緒子と年頃の優しい娘の緋緒子、お手伝いの石山さんが織り成す日々。つましい平凡な女所帯にも訪問客や縁談を世話する人物が顔を出し、さざ波が立つように、それぞれの人生に影響を与えていきます。寡婦である石山さんは感情豊かで、多緒子とのやり取りは時に微笑ましく、温泉旅行を発端に子供たちとの関係が変化していく様は切なくもあり複雑な心境に。「微温湯的生活」における母への感謝、安らぐ心のふるさと。巣立つ娘の準備を整える母の姿は凛として愛情に満ち、幸田さんの慈しみ深い眼差しと重なるようです。
2021/10/02
Gotoran
明治の文豪・幸田露伴の娘として、父の最晩年の日常を綴った文章で世に出た著者が、一旦の断筆宣言ののち、父の思い出から離れて、初めて本格的に取り組んだ記念碑的作品と云う。寡婦と娘と通いの家政婦、平凡に暮らす女世帯。人と人との交際が彼女らの心に大小の刺激を与え、変化を促してゆく。破壊的に、時には創造的に。三人三様の波が立つ。 登場人物の描写、特に心の変化をとらえたところが素晴らしい。親の気持ち、娘の気持ち、両方の視点からくみ取ることができる。面白く読むことができた。
2024/07/30
なつのふね
夫をなくした女と成人した娘、苦労人のお手伝い女性の3人暮らしを綴った小説。本人の生活と重なる部分があるように思う。戦後の東京の暮らしをしてきた人の生活という雰囲気はもちろんあるが、成人した娘自身が「ぬるま湯的生活」から自立しなければと葛藤し、静かに見守りそれに伴い母自身も1人をしっかり生きようとする姿勢は令和の今も共感できる。ちっとも古くないのだ。そして幸田文氏はとても内省的で自身のいたらなさも隠すことがないようだ。言葉遣いが東京的?でちょっと癖があるが、これからも読まれる作家ではないか、と思った。
2024/07/06
フリウリ
本書は寡婦と娘の物語で、露伴の死から7年目(昭和29年)の「婦人公論」における連載小説とのことです。登場人物は、幸田文と娘・玉のことをふつうに想起させますが、「父」については露伴を想起させる要素はごく薄くなっていて、文が父という要素を離れて、小説を書こうとしていたことが推察されます。登場人物はほぼ女性で、女性同士の人情のヒダ(波)やキメが丁寧に描かれていておもしろいのですが、男性を描くのは苦手そうです。7
2023/08/19
食物繊維
文章にリズムがあり、とても読みやすかったです。女性の身の振り方に関する考え方が変わり始める頃の時代らしく、一人娘はしっかり者の男性と仲良くなったけど、結婚をしてハッピーエンドという結末でない所に戦後を感じました。真面目で気配りを怠らない人達の物語で、落ち着いた雰囲気が楽しめます。
2022/02/05
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