この三つのもの (講談社文芸文庫 さE 6)
この三つのもの (講談社文芸文庫 さE 6) / 感想・レビュー
月
★★★★☆(佐藤春夫の終生の仕事と心得、そして渾身の力をふるった未完の私小説。世に細君譲渡事件とも言われているが、この小説に収められている3作品を読むともっと深い理解が得られるような気がする。特に最後の「僕らの結婚」は関係者達の優しさに溢れている。佐藤と谷崎の友情と谷崎の何処か屈折した愛。6歳違う二人だが、その才能を認めた潤一郎の春夫に対する友情とそれに対する春夫の友情は深い。作中登場人物で大野笛人という詩人が気になったが、なるほど白秋のことだったのかと一人納得する。)
2013/09/16
白檀薫る
いわゆる細君譲渡事件の顛末記ですが、1915年谷崎が千代と結婚するもすぐに不仲。痴人の愛のハルミのモデルとなった、千代の妹せい子を翌年引き取るなどのモラハラ夫ぶりに、佐藤春夫が同情することから始まります。 1921年に一旦谷崎が妻を譲ると約束したが撤回し、絶交状態になります。そんなこんなでやっと1930 年に三人で声明を出したのですから、10年以上の歳月が流れたわけです。とはいえ佐藤春夫も女性遍歴は華やかで如何なものですかね。これ以降千代と添い遂げるのですから良しというところですね。
ハチアカデミー
谷崎と春夫の間で実際におきたいわゆる「細君譲渡事件」を描いた小説作品であるのだが、道徳的には最低である。妻の感情は捨て置かれ男二人の相談で全てが決まる(実際はその後決定が谷崎側から一方的に覆されるのだが、作品はその前で未完のまま終わる)。男二人の正直な心情が語られているのだが、なんというか正直すぎるのだ。その正直さを、露悪的に描いた「小説」と読めるかどうかが評価の分かれ目か。事の詳細を丹念に、様々な人物の視点から構築する手法は試みとしては面白い。が、作家本人に悪意が感じられない分、「家畜」は酷い。
2015/06/04
YY
こういう事件をきっちり描けるのが素晴らしい。未完だが、その気迫は十二分に伝わってくる。冷徹に現実を見つめ、作品化する手腕が見事にあらわれている。この事件の結末はこの文庫を読めばわかるっていうのも善し悪しあるが、納得のいく編集。しかし、解決しなかった方が面白かったような気がするが、まあそんなことをいったら失礼だし、「僕らの結婚」の素直な気持ちを読むこともできなかったからよしわるし。
2014/08/10
saba
言わずとしれた、谷崎潤一郎と妻千代、佐藤春夫の細君譲渡事件を題材にした私小説。佐藤春夫にしたって女性関係は大概だが、お千代さんと一緒になってからは彼女と添い遂げた。結末を知っていなかったらもやもやしただろうな。
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