愛と幻想のファシズム 下
愛と幻想のファシズム 下 / 感想・レビュー
detu
独裁者、鈴原冬二と彼を取り巻く狩猟社は着々と勢力を拡大。物語は史実とフィクションを巧みに絡ませ壮大なスケールで政治、経済、IT、軍事、サバイバル、バイオレンス、クーデターと何でもありで難解極まりなかったが頁はとまらなかった。ファシズムには共鳴できないが究極の混乱時には必要なのかも知れぬ。事実民衆はそれを求めヒトラーを生み出したように。世界を支配するのは経済だと改めて実感。特段の感動は覚えなかったがいろいろ勉強になった。今現在のこの国を見ている気がした。 村上龍はスゴい。
2019/08/13
KASAO
久しぶりに読了の充実感がある。海外小説の長編を読了した後の不思議な満足と同じ感じ。世界を満たす民主主義及びグローバル経済というシステムとの戦いの物語。曖昧な終わり方をする小説が多い中、えげつないやり方にしろ見事に当時の国際社会における独立国としての日本のあり方を描ききっている。システムに対抗するには新しいシステムを作り、成立させれば良い。それが多くの人々にとって不本意でも、それに組み込まれてしまったなら、人々はそれに従うしかない。毒をもって毒を制す、がここでも通用することに気付かされた。
2015/11/25
よっぷぃ@アイコン詐欺
日本に台頭する独裁勢力を軸に進行するが、もちろんファシズムが主題ではない。成熟し複雑化した社会で、システムに隷属し依存する事によって生の実感が得られなくなっている。この閉塞感の打破こそが主題であろうし、その手法としてファシズムが描かれる。弱肉強食の淘汰に導く過激な物語ではあるが、込められたメッセージはロマンチック。その照れ隠しが、秀逸なタイトルを生んだのだろうか。作中にも「ギリシャ悲劇」との言及があるが、構成的には「オディプス王」に還元される。父なる米国を殺し、母なる日本を娶る……やっぱりロマンチックだ。
2012/04/24
ピップ
若干都合よく進んだような気がするけど、面白かったです。狩猟社の考えにはついていけない部分が多いけれど、そう考えるのは平和な現在に生きているから、と理解できたのはとても大きいです。もしも、本のように不安定で餓死の可能性があるような時代であったら、僕だって強力な指導者を求めるだろうと思う。なので、なぜドイツでヒトラーが政権をとったことも当然のことだったんだろうな。現在の政権に対して決められない政治だの、衆愚政治だの文句を言っていられるうちが幸せなんでしょうね。
2017/09/14
Ai
村上さんの滾らせるだけ滾らせておいてのこの終わり方。好き。1984年から、私が生まれる前に書かれた作品。世界の中で自信が持てず、希望も見えず、貧富の差は拡大し、経済危機。そんな日本は、今もあまり変わっていないが、少なくとも現状打開のために弱肉強食のファシズムを選ばず、持続可能みなで生き残ろうとする姿勢にはある。しかし、戦後も、ひょっとすると今後もファシズムを選ぶ可能性があることも考えると、安心できない。
2022/06/16
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