三人関係
三人関係 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
多和田葉子さんの初期の中篇2篇を収録。「かかとを失くして」は、群像新人文学賞受賞作。誰もがやはりカフカを連想するだろう。殊に『審判』、あるいは『城』あたりを。ただし、カフカのような底知れぬ暗さや、根源的な生の不安といったものは、ここにはない。むしろ、民譚的なおおらかさが小説世界を覆っている。あたかも「狐につままれた」ような世界観なのである。この延長上に「犬婿入り」が来るのだろう。表題作は、タイトルが示すように関係性そのものが小説のテーマである。もちろん、それは一筋縄でいくようなものでないのは自明なのだが。
2014/12/21
ごはん
イカはかかとのない十本の足で、上下左右に自由に水を蹴る。かかとがないなら、後ろ向きにも歩けるはず。習慣も違う、言葉も違う。自分を知っているひとのいない場所で、様々なことを感じ、思いを巡らし、空想する。まだ見ぬ夫の姿を夢想する日々。ページを捲ると次々に溢れてくる言葉に必死に食らいついて読む、読む、読む。他人の視線が自分の「かかと」を見ている。何か問題あるのか? 「かかと」が何を意味し、そして姿を見せようとしない夫。なによりも謎なのが「イカ」です。「かかとを失くして」と表題作「三人関係」の二編収録。
2009/07/09
まるよし
1990年代前半はこのような現実とファンタジーの融合のようなスタイルが流行った印象がある。村上春樹の後から出てきたスタイルに見える。どこまでが現実でどこからが空想かがとても分かりにくい。これで群像新人賞だから、群像の選考委員の先見の明は讃えたい。今の時代となって、この活躍を見たらわかるが、有象無象に混じってたら放つ光に気がつけるか?
2022/07/04
sashawakakasu
どちらも不思議なお話。見えない相手とゴタゴタするのはいつの時代も変わらないのかも。
2021/03/02
amanon
「かかとを〜」はカフカを思わせる不条理な世界。主人公の意識に強く巣食っていながら、最後まではっきりとした姿を現さない夫の存在が読む者に深い余韻を残す。表題作も現実世界から不思議に遊離した独特の世界像を描き出す著者の筆が冴え渡る。一応一人称でストーリーが綴られながらも、複眼的な視点をも持っているところが一筋縄ではいかないところ。一見して、綾子の体験を語り手が語っているかのように思わせる場面も、実は語り手の想像(妄想?)だとも読める。個人的には語り手と杉本の後日談が気になるところ。本当に二人は結婚するのか?
2016/04/22
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