宙返り 下
宙返り 下 / 感想・レビュー
梟をめぐる読書
「オウム的なもの」の蔓延によって宗教の意味が歪められてしまったこの世の中で、正しく人が「神」や「信仰」と向き合うための宗教共同体の構築可能性を模索する、壮大な寓話。ある教祖の「転向」問題に端を発する原初的な森への立ち返りの物語は相変わらずの「ズレを含んだ繰り返し」に満ちてはいるのだが、『緑の木』のギー兄さんの遺志が新しい登場人物らに批判的に受け継がれることによって、結末は予想外の方向へと導かれる。小説を支えるのは〝言語〟や〝祈り〟を介したコミットメントに対する、圧倒的なまでの作家の信頼。間違いなく傑作だ。
2013/03/24
相生
内に狂うほど熱い思いが、昂揚感の名残がある一方で腑に落ちない、肩透かしを食らった感じも残る。消化不良なのかもしれない。≪新しいひと≫として登場するギー同様、やはり大江にとって四国の森の谷間は世界の中心なのだろう、馴染み深くも思えるテン窪で起こる、微妙にズレながら歴史の中で繰り返されてきた神話=民話に繋がる出来事。そのインパクトとそれによる興奮が想像力自体となって神的なものにつながり人間に顕れ救いとなっている。神が不在で魂の救いはあるか、というテーマに対し神から解放される最後の言葉には力が籠っていると思う。
2016/03/28
amanon
後期大江がこれほどの作品をものにしていたとは!前編の『燃え上がる〜』が未読なため、正確な批評が困難なのは否めないが、それでも本作品は今後様々な意味で俎上に上げられ、また評価に値するものだと思う。とりわけ、反キリスト教というスタンスを掲げながら、なおかつキリスト教に寄り添う姿勢を隠さない師匠(パトロン)のあり方には、一キリスト者として大いなる興味を喚起させる。それだけでなく。一読しただけでは理解の及ばない数々の謎を散りばめた一作。再読したいが、まずは一息ついた後のほうが良さそう。とにかく凄まじい読書体験。
2024/01/18
あかつや
悲劇を乗り越えて読者におなじみ四国のあの土地で再出発する師匠の教会。物語の構造としては『懐かしい年への手紙』『燃えあがる緑の木』そしてこの『宙返り』と続く一連の小説は全て共通している。しかしそれはただの退屈な反復ではなく、作者がよく言及し、本作中でも語られた「ズレを含んだ繰り返し」であり、少しずつ高められているということなんだろうな。前2作では有耶無耶に頓挫していた活動が、今作では明確に次代を担う「新しい人」へとバトンを託されるのが、三部作最後としてとても清々しい締めくくりだと思う。少々下痢便臭が漂うが。
2021/09/13
ひと
立ち上げた教会には元信者たちが集まってきて、師匠は癌患者を治す奇跡を起こす。集会の説教では、世界の終わりに向けて悔い改め新しい人となるため踏み出せと説いたあと事件が起きる。。上下巻ともに、難解でしたが最後まで読んで良かったです。
2024/11/10
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