取り替え子
取り替え子 / 感想・レビュー
梟をめぐる読書
「語ること」そのものに非常な困難が伴う小説。作中において、積年の友人でもある義兄の死に遭遇した小説家の「長江」がテープレコーダーを介した彼との想像的な対話によって「現実」と「空想」のギャップに引き裂かれていくように、読者もまたこの小説が作者の周辺に取材した「モデル小説」かあくまでそうした実情とは切り離されて愉しまれるべき「フィクション」か、という問いの間に身を裂かれることになる。困ったことに「事実かフィクションか」を決定付ける材料が、この小説中には常に双方向的に表れるのだ。
2013/01/17
モリータ
◆2000年刊。講談社文庫版読了済。「おかしな二人組」三部作を単行本でそろえるため、蝸牛で拾い、既読の本棚に移動。2022/3/20
田中峰和
早熟で多才、語学にも秀でた伊丹は大江健三郎のチューターだった。彼の生きざまと死にざまを描いた本作は、名前は変えても設定は現実そのもの。どこまでが真実で、どこまでが創作なのか。松山の山村で遭遇した進駐軍将校ピーターと伊丹の間に何があったのか。その事件を境に別人のようになった伊丹を見て、チェンジリングを疑った妹。組織的な暴力との闘いに疲れたのか命を絶った伊丹が愛した女性に対して肉親ゆえに感じた共感。伊丹の子ではないが宿した子を伊丹の生まれ変わりと信じた妹は、子育てを支援する。大江は伊丹の死に救いを求めたのだ。
2016/01/16
καйυγα
No Comment.
2015/05/02
風に吹かれて
屋上から飛び降り他界した吾良。吾良とは、大江氏の義兄伊丹十三のことであろう。映画「お葬式」や「ミンボーの女」などの監督。二人は十代の頃から親交があったらしい。吾良の死後、鬱屈の中で本作の主人公長江古義人は吾良との日々を回想する。その中で、某有名ジャーナリストの批判に長江(大江)が苦しんできたことも明らかにされる。本の帯に「大きな悲哀の殻を突き破るようにして、新生の感情を育む」とある。「育む」・・・。最終章に、ようやく、その芽のようなものが現れる。本作は、『憂い顔の童子』に向けての長い序章なのかも知れない。
2015/04/02
感想・レビューをもっと見る