変身のためのオピウム
変身のためのオピウム / 感想・レビュー
ヴェネツィア
実に難解な小説である。タイトルの『変身のためのオピウム』からして意味不明だ。オピウムはアヘンや麻薬のことであり、マルクスの『ヘーゲル法哲学批判序説』の中の言葉「宗教は民衆のためのオピウムである」からとられているのは明白。しかし、そうだからといって何が分るといういうものでもない。スタイルは一見したところは長編小説だ。しかし、物語全体を貫流するプロットは、これまたあるような無いようなだ。表現のところどころはシュール・レアリスムを想わせるのだが、シュールではない。しいて言えば西脇の「旅人かへらず」に似ているか。
2014/02/24
いろは
『22人の女神たちのめくるめく陶酔と恍惚』というコメントが帯の作品。エロスを語りながら、卑猥でないところが女性らしく、サラサラ読みやすい。そして、多和田葉子の表現力に驚いた。どこにもないような思いつかない表現で作品が描かれている。まさに、多和田葉子だけの世界という印象だった。この世界には中毒性があるという人もいるが、私もなんだかまた世界が開かれたような、そんな気がした。女性ならではの独特な性格だったり、苦悩だったりが描かれているので、女性の方には特にオススメ。そして、多和田葉子の世界は表現の勉強にもなる。
2018/02/24
rinakko
再読。22の章から成る。とらえどころのない不可思議なイメージの連なりは、茫洋と広がり溢れ出す…かと思えば身体を貫く管のようにぎゅっと縮む。オピウムに酔わされ漂流する心地。ゆるゆるとくっついたり離れたりする22の女たちには、ギリシャ神話の女神やニンフの名が付けられ、何の女神か、何に変身するのか、誰の妻か母か…ということが少しずつ内容に繋がるので面白い。両腕の麻痺したレダ、亡命してきたコロニス、言葉の力と戦うクリメネ、40歳で家を出たリムナエア、男になりたいイフィス…。其々の抱えた生きにくさが好きで、共感した
2015/11/12
rinakko
再々読。ゆるやかに繋がる22人の女たちは、ギリシャ神話の登場人物の名で呼ばれ、其々の女神やニンフたちを示す幾つもの符牒が鏤められている。両腕の麻痺したレダ、亡命してきたコロニス、言葉の力と戦うクリメネ、男になりたいイフィス…。彼女たちの生き辛さと撓やかさは、性別や年齢、容姿、出自等々…によって外側から一方的に決め付けられ押し付けられる諸々の事柄に対し、やんわりと逃亡を図ろうとしていることから発しているように思える。そしてそこに必要なのは、“オウィディウスに立ち向かうためのオピウム”がもたらす陶酔状態。
2024/09/06
エムパンダ
神話の女性をモチーフにした22章。ずっと美しい詩的世界。初めは、既読章の登場人物が出てくるとページを遡っていた。しかしそういう関係性は章を追うごとに意味を成さなくなり(もしかしたら重大なモチーフが秘められているのかもしれないけど)、ただそこにある幻想を受け入れる、瞑想のような読書になった。これを私が思春期に読んでいたら、多和田葉子に陶酔し過ぎて人格が変わっていた気がする。
2023/08/05
感想・レビューをもっと見る