冬の旅人
冬の旅人 / 感想・レビュー
おりん
面白いと言うか凄い本だった。帝政ロシア末期にロシアへ渡った日本人の画家見習いが主人公の歴史・幻想小説。当時の風俗が詳細に描かれていて臨場感があり、所々幻想的なシーンが挿入され、重厚かつ独特な雰囲気がある。キャラクターもよく描けている。ストーリーは自由奔放で、ともすればご都合主義とか破綻しかけてると言われそうだがそれでも読めてしまうのは、キャラクターの良さと文章が醸す雰囲気の成せる技だろう。作者の表現者としての私小説的な面もあるのかなと邪推できる面もあり、文化系創作系の人間には面白く読めるのではと思う。
2020/09/22
藤月はな(灯れ松明の火)
表紙に使われた絵画の名がdemon and tamaraだったので驚きました。環(タマーラ)の自分の心の歪みと汚さを理解しながらもただ、今の刹那だけを見つめている姿は痛々しくも図太く、羨ましくも憎たらしい感情を呼び起こします。絶対唯一の神についての違和感は腑に落ちました。白昼夢のような現実への見方は突き放して見てしまいます。人間の狡猾さとそれに気づかないことで見いだせる救いと気づいていることでの厚顔さを描いたこの作品を読んでいると「綺麗は汚い、汚いは綺麗」という言葉が浮かびました。
2011/11/29
星落秋風五丈原
舞台は19世紀末、革命前夜のロシア。幼い頃に見た悪魔の絵に魅せられ17才でイコンの画法を学ぶため、川江環は日本人で初めて画学生としてロシア留学を許された。日本での忘れ難い過去を胸にペテルブルグへと向かう環には、幽体離脱する癖がある。環は留学先の女学院で禁を破って独房に閉じ込められ、水の精ルサルカの幻を見る。
2002/05/15
菊蔵
ただただ、すごい本を読んでしまったという思いでいっぱい。読んでいる間は至福で、久しぶりに文字を追う自覚なく、時間を飛び、世界には私と本だけ-という感覚に陥った。その感覚は得ようとしても到底得られるものではなく、作品と自分との歯車がガチッと合った時にだけ生じる快感かなと思う。皆川さんの作品を読むと大抵心がヒリヒリし、魂を鉋で削り取られるような描写に圧倒されるというよりぺちゃんこになってしまうが、この本は特に凄まじかった。この先も彼女の本を読んでいくし、皆川さんと同じ時代を生きることができて幸せです。
2017/11/10
あまりりす
主人公が日本人女性だったせいか、入り込みやすかったです。タマーラの凄まじい人生、ぐいぐい引きこまれました。少しの「狂気」を持たなければ、とても乗り越えることは出来ないでしょう。ロシアも…近くて遠い国だなぁ。またしても皆川作品で、自分の無知さ加減を思い知らされました。グリーシャのフルネームを見てもかの「怪僧」とは繋がりませんでした><;装画は「Demon and Tamara」と言うんですね、皆さんの感想を見て気付きましたΣ(゚Д゚)うまく言葉にできませんが、素晴らしい作品でした。いつか再読したいです!
2014/02/03
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