浪漫的な行軍の記録
浪漫的な行軍の記録 / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
文学の力、言葉の素晴らしさを実感させてくれる素晴らしい小説だ。重たく、ある意味悲しい内容なので人には勧められないが、日本や日本人のことを深く考えるきっかけを与えてくれる。戦争の末期の南方でほとんど意味のない行軍を続ける陸軍を描くがメインのプロット。軍隊の愚劣さや滑稽さがまるで夏目漱石のような格調高い文体で描かれており、その文体から苦い笑いが感じられるのが非常に好みだった。題の「浪漫」という言葉が効いており、盲目的に戦争のロマンティシズムを肯定した日本人のメンタリティのあり方に疑問が投げかけられる。
2015/11/18
おたま
奥泉光と加藤陽子の対談『この国の戦争』で紹介されていた奥泉の本。奥泉は1956年の生まれなので、太平洋戦争は体験していない。しかし、想像力を駆使して戦争の実像、現場に迫ろうとする。そこには幻想はない。ある島での戦闘に臨む陸軍兵士たちを描いているが、彼らは弾薬も食料も尽き果てて、それでも上官の「出発!」という命令のもとにひたひたという足音(裸足の者も多い)とともに行軍を続ける。「小休止!」の命令がなければいつまでも歩き続ける。なんのために歩くのか、闘うのかが分からなくなっても行軍は続く。靖国の中でも。
2022/08/26
nbhd
すんごいな、興奮したまま読み終えたけれど、カタルシスのかけらひとつもないし、涙も出ない。きっと、そこがよい。つらい、ひたひた歩く行軍のリズムが残響して、しばらく止みそうにない、このかんじは吐き気に近い。吐けばスッキリするのに、戦後ニッポンは吐かなかったし、吐けなかったんだろうと思う。これは、たぶんそういう小説だ。ちょっと不満なのは、物語ツールとしての虚実夢現生死の扱い方が巧すぎて、生臭さ、ゲロっぽさに上品さがあるところかなぁ。
2014/03/19
てふてふこ
人の心体を汚し、自然も汚す。全てを破壊する戦争は最も愚かだ。そんな固定観念があるので戦争の本は目を逸らしたいけれど、新年早々読んでしまった。主人公の体験をさも自分がしている観点で、行軍中の希望はただ休止命令、国家の精華を笑い、思考回路が麻痺してゆき、口にするものを探し死臭を嗅ぎ蛆を見て・・・奥泉さんの秀作に飲み込まれました。
2014/01/04
うらなり
行軍の話だが筆者は、1956年の生まれなので自分の経験ではないのだが、リアリティを感じる。
2020/06/19
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