薔薇密室
薔薇密室 / 感想・レビュー
nobby
いやぁ、いつもながら皆川さん独特の耽美な世界を堪能。朽ちていく人間と薔薇を共生させて互いの精気を取り戻す、こんな奇想天外な試みに何と魅せられてしまうのか…20世紀半ばのポーランド・ドイツを舞台に、何とか知識振り絞り哀しく切ない史実を追いかける。青い表紙の本『〈ヴィーナスの病〉の病原体とその治療薬に関する研究』の登場から、事柄や人物の混乱に戸惑いつつ段々と繋がる展開にワクワク出来る。“黴毒(ばいどく)”といういわゆる性病の症状や特徴の一面を取り上げて、誰でも知る歴史上の人物に重ねて描いた圧巻のサーガお見事!
2018/06/05
文庫フリーク@灯れ松明の火
そうね、物語を必要とするのは不幸な人間。本を閉じて灯りを消して、お休みなさいな。幸せなあなた。子守唄はツィゴイネルのリュート。ベッドは蔓薔薇の褥に、枕元の本は黒青い布貼りに変わりゆく。焦げた装丁は悪意が燃やした傷跡。静かにお休みなさいな。薔薇の樹液があなたの血管を巡り、あなたの血が薔薇の蕾を育むまで。生命力を享受して根付いたあなたを移植しましょう秘密の場所へ。そこは廃墟の聖堂 至聖所の奥。あなたを植える位置は薔薇の若者〔オーディン〕と美しき劣等体エンゲルの間。そして美しきSS少佐の正面。→続
2011/02/16
Rin
【図書館】濃密な薔薇の世界。深く広がる薔薇の香りが漂ってくるような耽美さと、慾望が渦巻いていた。それぞれの欲望に突き動かされる人々と、否応なしに大きな力に翻弄される人たち。何が物語で、何が現実なのか?あなたは誰なのか?読んでいる私も混乱してしまう世界が広がっていた。歪みすら美しい薔薇の僧院という外界から隔たれた世界。そんななかで、まっすぐに愛する人を思い続けていたユーリク。せめてミルカと再会をと願ってしまった。悲しい理由で物語を必要とする人が少しでも、少なくなればいい。そう祈りたくなるラストでした。
2017/08/16
けい
物語の主舞台はポーランド。1次大戦から2次大戦の終焉までが時代背景として描かれます。ポーランドの少女「ミルカ」とドイツの娼男「ヨリンゲル」を中心に彼らの周り起こる狂気と壮大な陰謀を皆川さんらしいグロくて詳細な表現で浮き彫りにします。「死の泉」では最後の最後に読者を混乱させる「あとがき」がありましたが、今作の最後はあっさり。今作においても冒頭からいきなり世界観に引き込む文章の吸引力はさすがでした。面白かった。
2013/06/23
mii22.
皆川ワールド耽読!ドイツ、ポーランドの国境にひっそり建つ薔薇の僧院。そこで行われていた禁断の実験。「初夏の夕べ、淡い紫の薄暮が朽ちた聖堂の壁にものの影を腐刻するとき」薔薇と融合した「薔薇の若者」に会う。なんと美しい光景なんだろう..脱走兵「私」の手記で始まる官能と倒錯の世界から、語り手が「わたし」と「俺」に変わるとナチスドイツの時代を背景に夢と現実の狭間で幻惑される物語にクラクラとし、幻影に悩まされる。最後まで読み終えて、また小序に戻り、色褪せた青いリボンに涙する。
2015/11/10
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