ポトスライムの舟
ポトスライムの舟 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2008年下半期、芥川賞受賞作。同時期の候補者には鹿島田真希や田中慎弥もいて、なかなかに激戦だった。まず、タイトルがいい。ポトスライムは、色彩の鮮やかさと瑞々しさを喚起するが、そこに舟が加わることで、イメージに一層の拡がりが生まれる。次にリズムがあり、スピード感に溢れる文体が爽やかだ。けっして明るい物語ではないのだが、暗く落ち込んで行くこともない。視点人物である主人公のナガセをはじめ、りつ子にも、母にも、その他の登場人物にも、どこにも男の影のない小説だ。そうなのだ。女はかくも自立して生きて行けるのだ。
2013/06/04
みも
表題作104頁『十二月の窓辺』77頁の2篇。ある意味2篇は「対」を成すのか。微妙な年齢を迎える自分に漫然たる不安を抱え、労働対価や仕事の意義を模索する女性。モラハラに遭いながら神経を摩耗させ、必死で会社組織の理不尽さとの距離感を保とうとする女性。端正且つ細緻な筆致で、丹念に日常の些事や思考を綴る。ただ修辞的には驚嘆すべき比喩もなく、生真面目で月並みな形容が並ぶ文章。構成の技法は巧妙であると思うが、文学作品として昇華されているのか否かは些か心許ない。芥川賞受賞作ですと聞けば「ああ、そうか」と頷くだけである。
2020/05/11
遥かなる想い
2009年度芥川賞受賞。工場で働く者の視点で「時間を金で売る」虚しさを巧みに描いてはいるが、やや淡々とした筆致が気になる。文学的な技巧の高さを評価されての受賞らしいが、私にはかえって盛り上がりのない物語にしているように思えた。
2011/08/12
みっちゃん
ナガセとツガワ。名前は変わっているけれど、『十二月の~』は『ポトスライム』の前日譚と私は受け取った。付け入れそうなひとをその嗅覚で嗅ぎわけて、浸食、搾取して支配し、恫喝を繰り返す人間と、そこから逃れたくてもその真面目さ、弱さ、優しさ故に疲れはて、弱るだけのひと達。これまで読んだ津村作品だけでも何度か出くわした構図だ。怒りが沸き起こる。どうか彼女が自らを人生の落伍者、と決めつけることなく、ささやかでも穏やかな暮らしを取り戻せるように。祈るような気持ちで『ポースケ』に進む。
2022/06/11
扉のこちら側
初読。2014年196冊め。働くつらさ。読むのが苦しかった。
2014/03/16
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