ボルドーの義兄
ボルドーの義兄 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
奇妙な味わいの小説。一見したところ難解そうには見えないところが、また曲者。作中に2000人のための小説というのが出てくるが、まさにそのような小説だ。小説から物語性や、登場人物の性格付けなどの夾雑物を一切取り払ったような小説といえばいいだろうか。そして、フローベールが庶幾した方法と可能性を極限にまで試みた小説でもあるだろう。また、言葉を文字を解体していく手法は、絵画におけるピカソの「アヴィニョンの女たち」にも例えられようか。そうした言葉の解体は、関係性の、そして個の確かさの解体を表象するのだろう。
2014/10/02
どんぐり
ハンブルグのオフィスで週2日バイトをし、大学で週に3日ドイツ語の語学講座に参加する主人公の優奈(若き日のこの作家が投影されているようだ)。友人レナの義兄の家を借りるためにボルドーを訪れる。その間の出来事に漢字一つを割り当て、「あたしの身に起こったこと」として記録する。その漢字は鏡文字で示され、言語の不思議なチカラ(力)と、文学の美しいタクラミ(企)で、これまで見たことのないカタチ(形)の小説が現れる。この小説は、ストーリーを無理に追おうとすると、言葉の森の中に迷い込んで読み終えるにちがいない。
2023/08/28
KAZOO
多和田さんの本は、随筆以外はあまり読んでいないのですが、これは実験小説のようなまたは随想のような感じを受けました。漢字を裏返しにしてそこに関連する出来事などを短い文章でつづっています。一度読んだだけでは裏返しの文字が気になって頭の中でまとまりがつかないので、それを除いてもう一度読んでみようと思いました。
2015/04/14
*maru*
多和田作品4冊目。言葉の力。小説の新しい形。文字の美しいタクラミ。一つの漢字をトキホグス。著者の作品には毎回驚かされる。新たな発見に興奮し、その表現力に感嘆し、至福の余韻に心震わせる。漢字とは奥ゆかしく力強い。優奈の“出来事メモ”のタイトルはすべて鏡文字で書かれた漢字一文字。反転するだけで見慣れた文字は異国の言葉のようによそよそしい。しかし、その姿は嫉妬するほど誇らしくて美しいのだ。言葉を愛する多和田さんらしいこの企みは、文字だけでなく読み手の心をも解きほぐす。
2018/03/23
踊る猫
この作品に限らず、多和田葉子の作品を読むとはっきり言葉に対する感受性がいい意味で狂ってしまうのを感じる。読むにつれてそれまで自明のものとしてあった言葉(「語」や「字」の1つ1つに至るまで)がいちいち個別性を主張し始め、それにしたがって読むスピードも停滞する。自明性に乗っかってページを繰ろうとする手と、その自明性を裏切って語が持ちうる独自の意味性を主張させる作家とのスリリングな駆け引き。裏返せばこうした駆け引きが楽しめるのはまさにぼくたちが文字を読む運動に身を任せるからであって、スジを粗略できない臭みもある
2024/08/11
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