ドーン (100周年書き下ろし)
ドーン (100周年書き下ろし) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
平野啓一郎は4作目だが、これまでに読んだものと比して文体、構想ともにもっとも通俗的な要素の多いものだった。設定は近未来SFなのだが、そこに人類初の有人火星探査船と、その乗組員間の確執、アメリカ大統領選挙キャンペーン、アメリカの覇権主義と軍需産業、individualとviduals、メルクビーンプ星人、さらには男女の愛情の機微などが複雑に絡み合って物語世界を構成する。ただ、あまりに様々な要素を持ち込みすぎたために焦点が曖昧になってしまったのは残念だ。著者の意欲はよくわかるし、エンディングも納得はできるが。
2014/08/20
KAZOO
平野さんの本はいくつか読んだのですが、この本は若干中途半端な感じです。あまりにも1冊の本の中に話題を詰め込みすぎている感じがします。浦沢さんの「ビリー・バット」ではないのですからもう少し話題を絞ってもよかったのではないかという気がします。ただ、現代新書の「私とは何かー個人から分人へ」を小説化した実験小説的な気もします。それにしてもこれだけ厚いのですから分冊にしてもいいと思うのですが。マイケル・コナリーはこれよりも薄くて分冊にしていますよね。販売戦略でしょう。
2016/10/12
K
人類で初めて火星に行った日本人の姿を描いた近未来SF。分人、可塑整形など平野さんらしい世界が展開されるが登場人物が多くややこしくて主人公の明日人がかすんだイメージ。
2016/08/31
クリママ
10年前に書かれた今から15年後の近未来。人類初めての2年半に亘る火星への旅。そのクルーたち(東京大震災で子供を亡くした日本人クルーとその妻も)、機内での事件。アメリカ大統領選挙。東アフリカ戦争。生物兵器によるテロ。関連し合っているがそれぞれについては深く描かれているわけではない。「散影」という人追跡サイト、顔が変化する「可塑整形」、そして、相対する人によって個人が分化された「ディヴ」。それは作家の唱える分人主義が具現化した世界だ。ファンタジーではなく、具体的に描かれた未来像に、落ち着かなさを感じた。
2019/05/02
おかむー
人類初の火星有人探査船“ドーン”に搭乗した日本人医師・佐野明日人を軸に帰還後のアメリカ大統領選挙とドーンの二年間に及ぶ旅に絡む秘密が描かれる。SFかと思ったら政治と哲学がほとんどだね。『可もなし不可もなし』。大統領選での秘密と陰謀が駆使された政治ゲームとしてはかなり満足。作品独自の概念、“個人”individualに対する“分人”dividualは、要は「相手によって変わるペルソナ」なのだろうけど、やたら「僕のディヴが…」「君のディヴは…」と濫用しすぎて正直くどい。作者としてはお気に入りなんだろうけどね。
2014/08/16
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