ヘヴン
ヘヴン / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2010年度の芸術選奨新人賞受賞作。物語はいじめをプロットの中核にしているだけに、きわめて陰惨で読みすすめるのも辛くなる。そうした中で語り手の「僕」の唯一の救いともなりアジールともなるのがコジマの存在だ。しかし、「僕」にはコジマを救うこともできず、コジマの前で「僕」が暴力を受けなければならないが故に、事は単純ではない。百瀬の論理は中学生にしてはあまりにも論理的に過ぎるが、虐められる側から虐める側の論理を忖度すればあのようになるのだろう。世界の遠近を取り戻しはしたが、コジマを永久に失った「僕」の孤独は深い。
2013/01/02
とら
この本で苛められてる子たちを可哀想だなあとか自分たちは思うわけだけれど、その本の中で苛めている人と一緒になって笑ったりシカトしたりしてる奴等まではいかないにしても、自分たちはやはりどこか通じてる部分はあるのだと思う。と言ってもこの本は出来上がってしまっていて、自分たちがどうしようと作り変える事は出来ないしどうしようも無い。世界はひとつでは無いから。みんな決定的に違う世界に生きている。自分の世界には関係が無いから、特に自分の世界には都合悪くないから苛める。ただ無意識に。...でもこれは加害者側の意見なのだ。
2013/01/04
kariya
天国を見たことはないけれど地獄があるのは知っている。斜視が原因でクラスメイトから酷い苛めを受ける”僕”は、クラスで同様の立場にある女子のコジマと、か細く、ただ一つの拠り所となる交流を続けるが、収まらない苛めはやがて。苛める側、苛められる側、どちらの言い分も完結して相手に届かず、コジマの主張は心を守る為の血を吐く詭弁にも見える。だが自らの言葉を証明するかのようなコジマの姿は、人が望み得る限界を越えて恐ろしく痛く悲しい。ヘヴンは存在するべきだった。最後の光景のあの後で、コジマは何を見るのだろう。
2009/10/14
Major
最近この作品について読メの友人と小さな読書会をする機会を得て、僕自身のレビューをまとめることにした。僕の友人に感謝する。表層的には「いじめ物語」が主題である。したがって、良心的な読み手のほとんどは、この主題が作り出す磁場に引き付けられる。重い鎖を巻き付けられてこの磁場に引き付けられる読者もいれば、苦々しい自責の念を背中に負って吸い寄せられる読者、少なからず後ろめたさを抱えて引寄せられる読者、さらに、この磁場に捉えられて、思い出したくない過去を振り返らざるを得ない読者も少なくないだろう。⇒10個のコメントへ
2019/12/31
utinopoti27
本書は中学でいじめを受ける僕とコジマ、いじめる側に立つ百瀬による、いわば小説形式の哲学書です。コジマは、自分の弱さを受け入れることこそ強さであり普遍の正義だと。一方で百瀬は、善悪の価値観は相対的なものであるという。全てのことに意味を見出して受け入れようとするコジマと、全てのことに意味などは無く、したいことをすればいいという百瀬。宗教的普遍か、実存か、追い詰められた僕の心の拠りどころは・・。ラストで自我の崩壊に至るコジマは、果たして信仰の先にある「ヘブン」にたどり着くことができたのか。重すぎる作品でした。
2018/04/29
感想・レビューをもっと見る