喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)
喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし) / 感想・レビュー
absinthe
面白かった。理系の世界、特に理論系の中でもとりわけ孤独な業界で、自伝的な作品ではないだろうか。外からは内に籠っている人にしか見えないがその内には広い世界が待っていた。世界を表現しきったとまでは言えないと思うけど、試みが良かった。実験系と違い、理論系では成果を出し損ねると論文にしにくい。つきつめても成果は出ないこともある。深まれば深まるほど、他人には見えない大きな世界が見えてくる。これは説明しがたい世界だ。詩的に表現された思索の描写は好き嫌いが分かれるに違いない。
2021/03/04
kishikan
「六人の超音波科学者」で初めて出会って以来、ミステリや小説は全てを追いかけ、物理や科学、コンピュータの話を織り込んだ話にのめり込んでいたが、もう森さんの新本(小説)は読めないものと思っていた。だが今回、突如講談社100周年書き下ろしで復活してくれた、うれしい!。僕には、喜嶋先生も橋場君も森さんの姿ではないかと思う。理想と現実の姿、それを淡々と綴ったんだろうなと思う。「フォークをくわえても、スパゲッティを食べても涙が止まらないから、一か八かワインにかけた、という感じだった。」こういう表現がたまらなく好きだ。
2011/02/15
ruki5894
王道を進む喜嶋先生が身を置く世界は、静かで孤独で少しだけ狂気だ。だからこそすごく崇高で感動した。読後切なさの残る余韻を引きずって、浸っている。
2017/06/21
ひめありす@灯れ松明の火
学部生だったころを思い出す。ものすごい刺激があるわけでもなく、ただやるべきことをこなしていくことで終わった日常。いつの頃からだろうか、学ぶことの面白さの虜になったのは。自分の好きなことを突き詰める喜びを、識ったのは。よく、大学生活はモラトリアムだといわれるけれど、決してそんなことはないと思う。静かな学びの世界から、人を追い立てるのは何?いつから大学は時間の流れに身を任せる空間になった?終わらないものなどなく変わらないものなどないのだから、この世界だけは、永劫放置しておいてほしい。静かに、しずかに。
2011/01/18
藤月はな(灯れ松明の火)
森氏の作品の1つ、「冷たい密室と博士たち」では「学問は面白いからやるものだ」という言葉が未だに印象強く、残っていたので学問とは人の考えを参考にして自分で1つの事柄について追求していくことというような意味を持っていることや日々の生活の中では研究を続けていくことが難しいと言う事実をこの本から改めて確認させられました。「私も自分なりの研究(文系ですが)を追求していけるのだろうか?」と思いつつも喜嶋先生の純粋な生き方が羨ましくなりました。
2010/11/18
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