不可能
不可能 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
夭逝するということはその人物の天才性を留め、俗に紛れる幻滅を失くし、偉大な人物として祭り上げられやすくする。「三島由紀夫」という死者を起こしたこの物語は他者や概念を馬鹿にしながら己の煌びやかな過去にのみ、自尊心を持つ老醜を描いた。しかし、その老醜は謎へと変わり、更なる幻滅の先の希望へと変じる。婚前前の婦女を愛を持って孕ませたとして去勢される美男子、そして薔薇に彩られた首無し死体。表紙からしてネタバレ気味です。しかも三島由紀夫作品というよりは中井英夫氏の『虚無の供物』の要素の方が強いようにも感じます。
2016/01/04
安南
もしも三島由紀夫が死に損ない老人になっていたら…という興味より、老いを否定し自死を選んだ作家を老境を迎えた男達がどのように捉えているのかが興味深くて。こちら本当に酷い。なにしろ平岡(三島)はいかにも生前の三島が嫌悪しそうな老人に描かれ、三島の言動や小説を裏返しにしたような皮肉で文字通り死者に鞭打つ残酷。その上あろうことか『人間失格』の主人公に比せられるという容赦の無さ。挙句の果て竹林で悟りに至るとは…長生きしたからこそわかることもあるのだよ若造、惜しかったな…と言いたいのか。→
2015/12/24
kozy758
最終章はやや興醒めであった。まさに「ザ・純文学」。読みごたえがある。三島由紀夫をモデルだ。老いとは何か考えられさせた。考えると余計にわからなくなる。そんな体験をした。装丁にも怖い凄みがある。首なしモノクロに「不可能」の文字である。松浦の本の装丁は独特のものがある。特に『半島』は素晴らしい。
2019/03/26
sankichineko
三島由紀夫が生きのびて服役後、老人となって刑務所を出たら、という設定のようです。墓の代わりに建てた家の地下室で、生身の人間ではない、人間らしき物の気配に囲まれて生きる。得体の知れないSとの交流も、生きているのか死んでいるのかわからない、奇妙な「老後」に馴染んでいます。後半、悔悛老人クラブが登場したあたり、雰囲気が一変します。最初は、いっちゃってる老人の御乱心ぶりが楽しかったんですが、なぜかその後ミステリもどきに。しかもCSIマイアミ・・・。三島由紀夫とも松浦寿輝ともまったく結びつきませんでした。
2015/04/18
yamahiko
三島に仮託した松浦氏独特の世界観を堪能。と思いきや最終章で、軽やかに転換され思わず哄笑。いずれにしても好きな作家であり詩人。
2014/12/07
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